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【ヒッチコック米時代】 2011.11.25 (Fri)

『知りすぎていた男 (1956米)』

(ヒッチコック全作品) 
43.『知りすぎていた男』

 ≪感想(※少しだけラストに言及≫
 あまりにあっけないラストシーン・・・。現代の映画作品なら、わが子をさらわれた両親の内面心理を深く掘り下げて、ラストの再会を感動的なものにするでしょう。しかしヒッチ作品においては、卑劣な誘拐もあくまでサスペンスを盛り上げるための道具立てでしかありません。
 例えば、脅迫電話を受けたJ・スチュワートが電話帳の端を指でこそぐシーン。 また決断を迫られたD・デイが迷いうろたえるクライマックスのシーン。 犯人一味のおばちゃん (B・デバンジー。彼女と教会で目が合う場面にはビビった!)が苦悩するシーンもそう。
 これらは温かい親心から発する描写であっても、目的はひたすら観客をハラハラさせるためのもの。ヒッチ作品には感動など不要なのです。
 映画のための美と技法と娯楽にこだわったヒッチが、アカデミー賞のような社会・芸術面ではなかなか評価されなかったのは、そういう職人的な作風ゆえの事だったのでしょう。



 A・ヒッチコック監督第43作 『知りすぎていた男 (1956米)』

 出演/ジェームズ・スチュワート (ベン・マッケンナ)
      ドリス・デイ (妻ジョー)
      ダニエル・ジェラン (ルイ・ベルナール)
      ブレンダ・デ=バンジー (ドレイトン夫人)
      レジー・ナルダー (暗殺者)
      クリストファー・オルスン (息子ハンク)

 ≪あらすじ≫
 モロッコに家族旅行にやってきたマッケンナ家は、ひょんなことから巨大な陰謀の一片を聞かされる。それがもとで誘拐された息子を救うべく、知りすぎていた夫妻の戦いが始まる。

 ≪見どころ・裏話≫
 イギリス時代の 『暗殺者の家(’34)』 をセルフ・リメイク。人気歌手のD・デイを起用、妻の活躍も前面に出すなど旧作よりはるかにスケールアップ。ヒッチ曰く 「アマチュアからプロへ」 の熟達を見せる。
 D・デイが歌う 『ケ・セラ・セラ』 が大ヒット、アカデミー主題歌賞受賞。この曲を筆頭に、音楽が重要なカギを握る。クライマックス、セリフなしで進む暗殺劇のスリルは、さすがサイレント時代から磨きぬかれた腕。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 25分ごろ、マラケッシュの大道芸を見物する後ろ向きの人だかり、左端にスーツ姿で。難易度高し。



  『THE MAN WHO KNEW TOO MUCH』
                 
 製作・監督/アルフレッド・ヒッチコック
     脚本/ジョン・マイケル・ヘイズ
          アンガス・マクフェイル (ヒッチの旧友。名義のみ)
     撮影/ロバート・バークス
     音楽/バーナード・ハーマン (指揮者役で顔見せ)
    挿入歌/『ケ・セラ・セラ』 詞レイ・エヴァンス、曲ジェイ・リヴィングストン (アカデミー主題歌賞)
    挿入曲/カンタータ 『時化<ストーム・クラウド>』 曲アーサー・ベンジャミン
  共同制作/ハーバート・コールマン

 パラマウント 120分
 
00:02  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2011.11.15 (Tue)

『間違えられた男 (1957米)』

(ヒッチコック全作品) 
44.『間違えられた男』

 ≪感想≫
 今回2度目の観賞。 地味な映画という記憶しかなかったのですが、意外と飽きさせなかった。 お話は地味でも、基本のカット割りなど映像語りの上手さがそうさせません。
 護送・投獄のシーンにはヒッチらしい華が。 ヒッチが重視したという「主人公目線」を交えたカットバックや、牢扉の小さなのぞき窓を貫く神技ズームはもっと注目されてもいい。また、憔悴した妻の顔にかかる陰影も効果的。その直後の「ブラシ」の大胆な編集は、後の『サイコ』の原型でしょうか。

 (以下ネタバレ・・・) ただ保釈後、自力で証人を探し回るのはヒッチらしい冒険の始まりだと思われたのに、うまくいかないうえ妻があんなことに・・・。結局は 「偶然」 と 「他力本願」 で一件落着。 ラスト、妻の「その後」の説明も消化不良でカタルシスに欠いた。 そのへんが地味な印象の理由です。



 A・ヒッチコック監督第44作 『間違えられた男 (1957米)』

 出演/ヘンリー・フォンダ (クリストファー・マニー・バレストレロ)
     ヴェラ・マイルズ (妻ローズ)
     アンソニー・クエイル (オコナー弁護士)

 ≪あらすじ≫
 マニーは貧しくとも家族と幸せに暮らすバンドマン。しかし身に覚えのない強盗容疑で、彼とその家族の平穏は無残に崩れ去っていく。

 ≪見どころ≫
 実話を基に、ヒッチ一流のユーモアやなまめかしさを一切排し、緊迫感あふれる語り口でつづる。久々のモノクロ撮影が重く暗い。 
 ヒッチはモデルになった1953年の事件そのままに、登場人物の一部やロケーション(刑務所や病院)は、実際に関わったものを用いた。特に終盤の捕り物劇は、店も人も同じまったくの再現ドラマだそうだ (ラストの表記)。・・・ただしその 「実話」 に徹したアプローチが、映画としての盛り上がりに欠けた最大の理由だ。
 お粗末きわまる捜査にいいかげんな裁判・・・警察ぎらいなイギリス人ヒッチの司法不信がよく表れている。

 ≪裏話≫
 新進女優ヴェラ・マイルズに惚れこんだヒッチは、I・バーグマンやG・ケリーの面影を彼女に見出していたが、撮影中に結婚されてまたも失恋。その腹いせに、後の 『サイコ』 では脇役しか与えなかった。(『サイコ』の有名な予告編で、悲鳴を上げているのがヴェラ。彼女が殺されるふうに思わせるカモフラージュのため。)
 ちなみに、ヴェラの結婚は1956年4月15日。同18日はモナコ公妃になったグレース・ケリーの挙式であった。ヒッチはモナコに招待されていたが欠席している。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 冒頭、逆光のシルエットで現れ、「これはすべて真実の物語です」と観客にスピーチ。
 はじめは、クラブにタクシーで乗りつける客の役で撮影されていたが、シリアスな物語にお遊びはそぐわないためボツになった。


 
  『THE WRONG MAN』

 監督・製作/アルフレッド・ヒッチコック
 脚本・原作/マックスウェル・アンダーソン
     脚本/アンガス・マクフェイル (ヒッチの旧友。名義のみ)
     撮影/ロバート・バークス
     音楽/バーナード・ハーマン

 ワーナー 105分
 
22:32  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2011.11.05 (Sat)

『めまい (1958米)』

(ヒッチコック全作品) 
45.『めまい』

 ≪感想≫
 子供のころ、淀川長治さんの 『日曜洋画劇場』 で見たはじめてのヒッチコック作品です。 先祖の墓や謎の肖像画・・・、そしてJ・スチュワートの顔だけがウニャウニャする悪夢のシーンがインパクト満点。そのせいで 「奇抜、サイケ、おどろおどろしい」 というイメージがついてしまいました。子供には早すぎた。

 個人的に、異性を支配したり自分色に染めたりの願望が薄いので、何度見ても感情移入できない。そういう気持ちがあったとしてもこれは極端すぎる。
 主演のJ・スチュワート(当時50歳)が老けすぎていたというヒッチの指摘は合っていると思う。演技は文句なく素晴らしいが、極端にまじめすぎていて引いてしまった。ヒッチの屈折した女性支配願望がそもそもの問題なのだけれど。



 A・ヒッチコック監督第45作 『めまい (1958米)』

 出演/ジェームズ・スチュワート (ジョニー"スコティ"ファーガソン)
     キム・ノヴァク (マデリン・エルスター、ジュディ・バートン2役)
     バーバラ・ベル・ゲデス (助手ミッジ・ウッド)
      トム・ヘルモア (エルスター)

 ≪あらすじ (ややネタバレ)≫
 高所恐怖症の元刑事ジョニー“スコティ”は、旧友エルスターからその妻の尾行を依頼される。彼は挙動不審の妻マデリンを追って教会の鐘楼に登るが、高所恐怖症によるめまいに襲われ、むざむざとマデリンの自殺を許してしまう。
 失意の中、町をさまようジョニーは、マデリンに瓜二つの娘ジュディと出くわす。果たしてジュディの正体とは・・・?

 ≪解説≫
 次第に娘を追いつめる主人公の狂わしき執着心、幻想的な夢の描写・・・ヒッチの作品中もっとも官能的なサスペンス。愛するバーグマンやG・ケリーをその腕に抱けなかったヒッチの女性観が如実に描かれている。
 ヒッチにとって理想とする 「正のヒーロー」 がケイリー・グラントなら、暗黒面を重ね合わせた 「負のヒーロー」 はジェームズ・スチュワートだったか。共に4作ずつヒッチコック作品に主演したふたり。次作 『北北西・・・』 と本作は、その明暗両面の集大成的な作品になった。

 高所恐怖症はヒッチ作品の重要なキーワードで、らせん階段のめまいのシーンはヒッチを語る上ではずせない屈指の名場面。(レンズをズーム・アウトしながら、カメラを前方へドリー・イン)

 グラフィック・デザインの名匠ソウル・バスが、三連作 『めまい』 『北北西に進路を取れ』 『サイコ』 と、彼にとっても代表作になった素晴らしいタイトルデザイン(オープニング映像)を提供している。 めまいのように妖しく渦巻く曲線は、映画のオープニングにコンピューター・グラフィック(CG)を用いた史上初の作品であった。(CG製作はジョン・ホイットニー・シニアというパイオニア。)
 ほか、アカデミー美術・装置賞、録音賞にノミネート。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 11分ごろ、友人エルスターの造船会社の前を横切る。



  『VERTIGO』

 製作・監督/アルフレッド・ヒッチコック
     脚本/アレック・コペル、サミュエル・テイラー
     原作/ピエール・ボワロ、トマ・ナルスジャック
     撮影/ロバート・バークス
     美術/ハル・ペライラ、ヘンリー・バムステッド (アカデミー美術・装置賞ノミネート)
     装置/サム・コマー、フランク・マッケルビー (アカデミー美術・装置賞ノミネート)
タイトルデザイン/ソウル・バス (op映像のこと)
     音楽/バーナード・ハーマン
     録音/ハロルド・ルイス、ウィンストン・レヴェレット (アカデミー録音賞ノミネート)
  共同製作/ハーバート・コールマン

     パラマウント 128分
 
21:01  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2011.10.27 (Thu)

『北北西に進路を取れ (1959米)』

(ヒッチコック全作品) 
46.『北北西に進路を取れ』

 ≪感想≫
 『裏窓('54)』 の次または同等に好きな作品。
 空港でのロジャーと教授の会話が印象的。すでに観客が知っている物語の情報は、飛行機の爆音で消して二度手間を省く。そもそも教授やヴァンダムが奪い合うフィルムの中身って何? そういう余計な物語設定(マクガフィン)の説明を排して、主人公の冒険につぐ冒険をたたみかけます。
 「観客に何を見せるか。観客は何を面白がるか」 にとことん徹したプロフェッショナルのカガミ。 ヒッチのキャリアにおいても集大成、ベートーヴェンでいう 『第九』 のような記念碑的作品になりました。

 K・グラントのひげ剃りシ-ンがかわいい。 オークション会場からの脱出法も、さすが喜劇出身のおかしさ。
 相手役のE・M・セイントも、とくべつ美人で売ってた人じゃないんだけど、ヒッチにかかれば 「ヒッチコック・ク-ルビューティー」 を代表するひとりに。謎めいたオトナの女っぷりがいいんだよなぁ。



 A・ヒッチコック監督第46作 『北北西に進路を取れ (1959米)』

 出演/ケイリー・グラント (ロジャー・ソーンヒル)        
     エヴァ・マリー・セイント (イヴ・ケンドール)    
     ジェームズ・メイスン (ヴァンダム)
     レオ・G・キャロル (教授)       

 ≪あらすじ≫
 キャプランという男に間違えられた会社重役ロジャーは、謎の組織に命を狙われたうえ、殺人犯に仕立てられて警察からも追われる身に。事件のカギを握る本物のキャプランを捜して、アメリカ各地を転々とするロジャー。そこで彼は謎の美女イヴと出会う。果たして彼女は敵か味方か・・・?

 ≪解説≫
 平凡な市民が犯罪者と間違われ、警察に追われながらも真犯人を探して冒険する・・・という、ヒッチ作品の重要なスタイル 「巻き込まれ型」 サスペンスの集大成となった傑作。
 従来の密室サスペンスを逆手に取った大平原での襲撃シーンや、名勝ラシュモア山での攻防など数々の名場面を生み、ヒッチが理想とした娯楽冒険サスペンスが見事に実を結ぶ。
 またJ・メイスンが演じた 「上品で紳士的な悪役」 もヒッチ作品の特徴のひとつ。正義と悪の対決だけでなく、ひとりの美女をめぐる 「恋の対決」 を並行させるストーリーもまた、ヒッチコック話法の集大成といえるだろう。

 アカデミー脚本、カラー美術装置、編集賞ノミネート。(無冠。ちなみに同年はあの『ベン・ハー』イヤーだった。)

 ≪ヒッチはここだ!≫
 冒頭、バスに乗り遅れる。名前つきだからすぐわかるぞ。



 『NORTH BY NORTHWEST』

 製作・監督/アルフレッド・ヒッチコック
     脚本/アーネスト・レーマン
     撮影/ロバート・バークス
     音楽/バーナード・ハーマン
タイトル・デザイン/ソウル・バス (*オープニング映像のこと)
  共同制作/ハーバード・コールマン

 MGM 136分
 
23:22  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2011.10.10 (Mon)

『サイコ (1960米)』

(ヒッチコック全作品) 
47.『サイコ』
(白黒映画)

 ≪感想≫
 例のシーンが有名になりすぎて、公開当時の衝撃を体験できないのが残念です。
 ヒッチ本来の狙いは・・・
 ・・・スター女優演じるヒロインが逃げる。しつこく付きまとう警官のスリル。彼女は逃げ切れるのか?・・・たどり着いたモーテルでシャワー。「あぁ、明日自首してサッパリやり直そう」。一件落着・・・で、あれ。 そりゃ予備知識なく見た人はびっくりだ。
 だから、ベイツ荘の不気味さに最初から注目しすぎるのは、あらすじ解説としてよろしくないと思う。(・・・本人出演の「予告編」では堂々と解説しているけど。)

 「事件」後、ベイツが部屋に駆けつけるシーンなどなど――。カメラを長回しして行動や心理をじっくり丁寧に描写しつつ、「床に落ちる額ぶち」の短いカットを挿入してメリハリやスピード感も出す。こういう熟達した職人センスが随所に散りばめられていて上手い。

 あと、ガラスを引っかいたようなB・ハーマンの音楽が最高に怖い! コワイ、コワイ、コワイ。淀川長治さんになった気分。それくらい、コワイネー。



 A・ヒッチコック監督第47作 『サイコ (1960米)』

 出演/ジャネット・リー (マリオン・クレイン)
     アンソニー・パーキンス (ノーマン・ベイツ)
     ヴェラ・マイルズ (マリオンの妹ライラ)
     ジョン・ギャビン (サム)
     マーティン・バルサム( 私立探偵アーボガスト)

 ≪あらすじ≫
 出来心から会社の金を着服したマリオンは、罪悪感に駆られながら逃走、片田舎のモーテルにたどり着く。そこの主人ノーマン・ベイツは陰気だが親切な青年。部屋を借り、ようやく我に返ったマリオンは自首を決意する・・・。

 ≪解説≫
 戦慄のサイコ・スリラー。ヒッチの代表作のように目されているが、むしろ前作の 『北北西…』 でひと段落つけたヒッチが、文字通りサイコ・スリラーに転じた異色作といえよう。
 今日ではこの分野に先鞭をつけた作品として名高いが、当時はあまりにも猟奇的なストーリーにスポンサーが尻込みしたという。それでも 『ヒッチコック劇場』 で培ったTVスタッフとの縁で、80万ドルの低予算で3600万ドルの大ヒットを記録した。
 劇場予告編にはヒッチ自身が登場、「決してストーリーは話さないでください」「必ず最初から観てください」と観客に念を押し、以後アメリカの映画館では途中入場が禁じられるルールが定着した。
 アカデミー監督、助演女優(J・リー)、モノクロ撮影、モノクロ美術装置賞にノミネートされるも無冠。(主要受賞作は、ビリー・ワイルダー監督『アパートの鍵貸します』)

 ≪ヒッチの発明≫
 逃走中のマリオンの脳裏によぎる人々の会話や、ラストの役者が口を動かさず別録りの音声をかぶせて内心を語る 「独白(モノローグ)」 の手法。これらの「声」の使い方は、ヒッチコックその人が発明した映画技法である。(それぞれ『ジュノーと孔雀(1929英)』、『殺人!(1930)』)

 ≪ヒッチはここだ!≫
 6分ごろ、マリオンが勤めるオフィスの窓の外に立っている。ツバ広のウェスタン帽。



 『PSYCO』

 製作・監督/アルフレッド・ヒッチコック
     脚本/ジョセフ・ステファーノ
     原作/ロバート・ブラック
     撮影/ジョン・L・ラッセル
タイトルデザイン/ソウル・バス (オープニング映像のこと)
     音楽/バーナード・ハーマン

 パラマウント 109分
 
09:41  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2011.10.01 (Sat)

『鳥 (1963米)』

(ヒッチコック全作品) 
48.『鳥』

 ≪感想≫
 すべてのヒッチコック・ヒロインの中で、本作のティッピ・ヘドレンは 『裏窓』 グレース・ケリーの次に好き。

 「銀幕の中の美女」の域を出なかったイングリッド・バーグマン、より活発に冒険を楽しみながらも、お決まりの結婚観に縛られていたグレース・ケリー(が演じたヒロイン)。 ・・・男性主人公に華を添える存在でしかなかったヒッチ作品のヒロインが、この 『鳥』 では初めて単独主人公なみの活躍を見せる。(ティッピは新人だったので、クレジットは男優R・テイラーの次だが。)

 本作のヒロイン・メラニーは、狙った男に自分から飛びつく一方で、子供や老母は身を挺して守る「責任」も背負っている。当時の価値観ではアバズレ呼ばわりされてはいるが、恋も危機も自分の判断で行動する、りっぱな自立した女だ。(かたや相手役の男性主人公はあくまでチカラ仕事専門で、キャラクターがそこまで肉付けされているわけではない。)
 本作が 「ヒッチコック・タッチ」 の完成型になったように、ティッピ・ヘドレン演じるメラニーも 「ヒッチコック・ヒロイン」 の完成型ではなかっただろうか。

 ・・・そんなヒロインのT・ヘドレンに負けず劣らず、母親役のJ・タンディが美しい。彼女が悲鳴も出ないほど腰砕けに逃げ出す演技は、リアルで怖ろしかった。



 A・ヒッチコック監督第48作 『鳥 (1963米)』

 出演/ティッピ・ヘドレン (メラニー)
     ロッド・テイラー (ミッチ)
     ジェシカ・タンディ (ミッチの母)
     スザンヌ・プレシェット (アニー)
     ヴェロニカ・カートライト (ミッチの妹キャシー)

 ≪あらすじ≫
 西海岸の小さな港町にやってきたメラニーは、新しい恋人ミッチとの再会もそこそこに、一羽のカモメに襲われる。小さな異変は次第に町中に広がり、無垢な鳥たちは人々を恐怖に陥れていく。

 ≪解説≫
 パニック映画の先駆けとなった傑作。 ストーリーは異色ながら、「最小から最大へ」というサスペンス・スリラーの方程式を完成させた円熟の逸品だ。 有名な“ジャングルジム”の演出は、増幅する恐怖とそのプロセスを見せる名人芸の一例。

 “鳥”というテーマは、“列車”“高所恐怖症”と並ぶヒッチの3大キーワードのひとつ。恐怖や冒険の象徴としてしばしば採り上げられている。 (ちなみに青果商だったヒッチの父は養鶏業にも携わっていた。鳥がシメられる様子を日常的に見ていたせいなのかな。)
 音楽はまったくなく、シンセサイザー技術で作られた鳥の鳴き声だけが“終末論”的な恐怖で静かに迫ってくる。――もちろん本作が「この世の終末」を暗示している訳ではない。劇中そういうおばちゃんがいただけ――
 ――なぜ鳥が人を襲うかを明らかにしないが、そこが説教くさくなくてヒッチらしい。 基本設定(マクガフィン)は極力単純にし、訳知り顔の裏設定や裏読みを排するのがヒッチの娯楽哲学だ。

 脚本のE・ハンターは人気作家エド・マクベインの別名。

 ≪ヒッチ近況≫
 前’62年にパラマウントからユニヴァーサル社へ移籍。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 冒頭、ペット・ショップから2匹のテリア犬を連れて出てくる。実際にヒッチ家の愛犬らしい。



 『THE BIRD』
                         
 製作・監督/アルフレッド・ヒッチコック
     脚本/エヴァン・ハンター (エド・マクベインの別名義)
     原作/ダフネ・デュ=モーリア
     撮影/ロバート・バークス
 鳥の電子音/レミ・ガスマン、オスカー・サラ
   音楽監督/バーナード・ハーマン

 ユニヴァーサル 120分
 
00:22  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2011.09.20 (Tue)

『マーニー (1964米)』

(ヒッチコック全作品) 
『マーニー』

 ≪感想≫
 ほとんど主役ふたりだけのやり取りなので、途中で退屈してしまう。ティッピは謎めいた妖婦というより、前作 『鳥』 のような等身大タイプ。 グレース・ケリーではないので、独力で2時間もたせるのは苦しい。 ヒロインの母親役も、どっしり存在感のある人がよかった (前作ジェシカ・タンディとか)。



 A・ヒッチコック監督第49作 『マーニー (1964米)』

 出演/ティッピ・ヘドレン (マーニー・エドガー)
     ショーン・コネリー (マーク・ラトランド)
     ダイアン・ベーカー (マークの義妹リル)
     ルイーズ・ラサム (マーニーの母)

 ≪あらすじ≫
 会社を渡り歩いては盗みをはたらく美女マーニー。そんな彼女を雇った社長マークは、彼女が泥棒であることに気づいていた。やがてふたりは結ばれるが、マーニーは忌まわしき心の傷を抱えていた。

 ≪見どころ≫
 幼少期の“トラウマ”を抱えた妖婦の物語だが、ヒッチの思い入れ先行で観客に受け入れられず失敗。
 ヒッチがバーグマン~G・ケリーに続く 「恋人」 として選んだT・ヘドレンが美しい。 女優を美しく撮ることにかけては映画史上でも指折りのヒッチ。 良くも悪くも公私混同して、自身の趣味嗜好を存分にフィルムに焼きつけている。
 もともとはモナコ公妃グレース・ケリーの女優復帰作として計画されていたが、夫君レーニエ公やモナコ国民の反対により実現はならなかった。

 ≪裏話≫
 ヒッチは自らCMモデルから発掘したティッピにしつこく言い寄るが、突っぱねられた腹いせに口も利かなくなるほど関係が冷え込んだらしい。そういうパワハラ・セクハラは良くないよ、ヒッチさん。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 序盤5分、ヒロインと入れ違いにホテルの一室から出てくる。しかもこちらをにらむ。



    『MARNIE』

 監督・製作/アルフレッド・ヒッチコック
     脚本/ジェイ・ブレッソン・アレン
     原作/ウィンストン・グレアム
     撮影/ロバート・バークス
     音楽/バーナード・ハーマン

 ユニヴァーサル 128分
 
22:06  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑