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【ヒッチコック全作品】 2012.08.26 (Sun)

『サボタージュ (1936英)』

(ヒッチコック全作品) 
20.サボタージュ

 ≪感想 (※ネタバレあり)≫
 ヒッチ自身も悔いているように、映画の中とはいえ子供を殺すことに関しては問題があるが、そのシーン、「時計」と「少年」と「包み」を順に見せて時限爆弾の緊張を盛り上げるのは、ほれぼれするようなスリル演出のお手本 (しかも、当の少年は少年で、命じられたお使いの時間に遅れないか焦っているのだ!)。
 そのあと一言も発することなく復讐までもっていく、ヒロインの心理と行動の描写もさすが。(-‐-いつもの、ただのナイフが凶器になることに気付いた瞬間。良心と復讐心の狭間で揺れ動く手の動き-‐-) 派手なカメラワークだけではない、見る人すべてに意図が伝わる映像演出の確かさ・丁寧さにこそ、ヒッチコックが巨匠たるゆえんがある。
 また夫のためらい、焦り、見苦しい言い訳など、憎むべき犯罪者の側の人間像にも血が通っていてリアルだ。
 イギリス時代の作品で一番好きかも。



 A・ヒッチコック監督第20作 『サボタージュ (1936英)』

 出演/シルヴィア・シドニー (シルヴィア)
     オスカー・ホモルカ (ヴァーロック)
     ジョン・ローダー (スペンサー刑事)
     デズモンド・テスター (スティーヴ)

 ≪あらすじ≫
 シルヴィアの夫ヴァーロックは、映画館主に名を借りた破壊工作員。しかしスペンサー刑事に追い詰められた彼は、シルヴィアの弟スティーヴに爆弾を託す。何も知らないスティーヴ少年は・・・。

 ≪解説≫
 明るい市民生活にひそむ恐怖の影を描く。
 社会不安を煽るとして軍政日本やブラジルなどでは劇場公開が大きく遅れたが、ヒッチの優れた演出力をあらわす秀作として、今日では企画上映やヒッチを取材したドキュメンタリーなどでしばしば取り上げられている。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 不明。 (wikipedia には 「9分ごろ、停電から復旧した瞬間、明かりを見上げて左に見切れていく通行人」 とあるが、本当にこれか??)



  『SABOTAGE』

 監督/アルフレッド・ヒッチコック
 脚本/チャールズ・ベネット
 原作/ジョセフ・コンラッド
 撮影/バーナード・ノウルズ
 音楽/ルイ・レヴィ
 製作/マイケル・バルコン

 ゴーモン・ブリティッシュ社 76分
 
10:15  |  ヒッチコック全作品  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック全作品】 2012.08.13 (Mon)

『第3逃亡者 (1937英)』

(ヒッチコック全作品) 
21.第三逃亡者

 ≪感想≫
 「巻き込まれ型」の冒険劇はヒッチコック的なテーマの典型なのだが、主演の男女が文字通り「ヤング・アンド・イノセント」すぎて、とても話が軽く感じた (3年前の『暗殺者の家』では娘役だったピルビームはこの時18歳)。 スリルの中の軽妙なやり取りは、ケーリー・グラントくらいのオトナじゃないと似合わない。
 それでも冒頭、死体が発見された瞬間、カモメの映像をはさむセンスがかっこいい。踏切や炭鉱でのカー・スタントも「おっ」と思わせた。最後のクレーン撮影もしかり。 全体的に見せ場には欠くけれど、テンポはいいので退屈せず観ることができた。



 A・ヒッチコック監督第21作 『第3逃亡者 (1937英)』

 出演/デリック・デマーニー (ロバート)
     ノヴァ・ピルビーム (エリカ)
     パーシー・マーモント (エリカの父バーゴイン大佐)
     エドワード・リグビー (ウィルじいさん)
     ジョージ・カーズン (被害者の夫ガイ)

 ≪あらすじ≫
 偶然にも愛人の水死体を発見したため、殺人犯として逮捕されたロバート。しかし裁判所の混乱に乗じて逃亡、そこで警察署長の娘エリカと出会う。若く無邪気な彼女はロバートの無実を信じ、ともに真犯人を探して奔走する。

 ≪解説≫
 無実の罪で追われる主人公が真犯人を探して冒険する、ヒッチ初期の“巻き込まれ型”サスペンス。 若い男女に個性的な悪役・・・、渡米後に似た構成で練り直されたのが 『逃走迷路('42)』
 クライマックスのクレーン撮影がお見事。カメラが探索者の目となってさまよいながら、ググッと物語の核心にクローズアップするという映像表現は、このとき発明されたのだとか。

 ・・・ところで、邦題の意味は何だ? 『第三の男 ('49英-'52日)』 か? それともナチスの 「第三帝国」 に乗ったのか?(前'36年ベルリン五輪、同'37年日独伊防共協定。 日本劇場初公開は1977年。)

 ≪裏話≫
 この撮影時、ヒッチが契約していたゴーモン・ブリティッシュ社は、経営不振により製作部門を廃して配給事業のみに。ヒッチ育ての親マイケル・バルコンは社を去り、売れっ子のヒッチも身の割り振りを迫られる。
 撮影後の同'37年8月、ヒッチ一家は初めてアメリカを旅行。そこでハリウッド各社からオファーを受け、翌年、若き辣腕プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニック (『キングコング』 『風と共に去りぬ』 そして 『レベッカ』) と契約を交わす。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 15分、裁判所の入り口で、小さなカメラをかまえてオロオロしている記者。



 『YOUNG AND INNOCENT』

 監督/アルフレッド・ヒッチコック
 脚本/チャールズ・ベネット
      エドウィン・グリーンウッド、アンソニー・アームストロング
 原作/ジョセフィン・テイ
 撮影/バーナード・ノゥルズ
 音楽/ルイ・レヴィ
 製作/エドワード・ブラック

 ゲインズボロー製作、ゴーモン・ブリティッシュ配給 84分
 
00:53  |  ヒッチコック全作品  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック全作品】 2012.08.02 (Thu)

『バルカン超特急 (1938英)』

(ヒッチコック全作品) 
22.バルカン超特急

 ≪感想≫
 シンプルな構成、テンポの良い展開、あふれるユーモア、バラエティに富んだ登場人物たち。 誰にでも分かる誰にでも楽しい、娯楽映画のカガミ。何度も見たのに今回も90分があっという間だった。

 物語構成は分かりやすく3部。まず、カンヅメにされた山岳ホテルの珍騒動で、登場人物たちの人となりが紹介される。そこへ忍び寄る殺しの影が、何事かと気を引き締めさせる。
 それからいよいよ、列車内に消えた老婦人の怪。設定じたいが面白いし、それぞれに「理由」がある登場人物たちの個性がしっかり効いていて無理がない。
 そしてクライマックスの銃撃戦。 架空の国という設定ながら、時代は第2次大戦前夜。強大な敵にもひるまない勇敢な戦いぶりには、ただのドンパチではない意義や興奮が当時こめられていたのだろう。
 小道具使いなど細かい演出は意外と粗っぽかったが、楽しむにはじゅうぶんだった。



 A・ヒッチコック監督第22作 『バルカン超特急 (1938英)』

 出演/マーガレット・ロックウッド (アイリス・ヘンダーソン)
     マイケル・レッドグレイヴ (ギルバート)
     メイ・ウィッティ (フロイ)
     ノーントン・ウェイン (英国人カルディコット)
     バジル・ラドフォード (英国人チャーターズ)
     ポール・ルーカス (ハルツ博士)

 ≪あらすじ≫
 東欧バルカン山脈の小さな駅。雪で立ち往生をくらった旅行客が泊まるホテルで、人知れず男が殺される。翌朝、英国貴族の令嬢アイリス、青年音楽家ギルバートらさまざまな人たちを乗せて列車は出発するが、同乗した老婦人フロイがこつ然と姿を消す。アイリスは周囲にフロイの行方を尋ねてまわるが、皆が皆その存在すら知らないと言う・・・。

 ≪解説≫
 イギリス時代の代表作のひとつ。 翌年の渡米を控えて、ヒッチの名声をさらに高めた。
 謎に満ちたストーリーが実に奇想天外で楽しく、英米では後に幾度となくリメイクされている。(水野晴郎さんのあの怪作も、本作が元ネタだとか!?)
 後のイギリス映画界の御大M・レッドグレイヴが映画初出演 (若い! 3人の子ヴァネッサ、コリン、リンもそろって名優に)。 また、息の合った英国人コンビは、実際この役名で活躍していた喜劇コンビだそうだ。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 90分、列車が到着した物語終盤、ロンドン駅のホームをタバコを吸いながら歩いている。ちょこんと肩をすくめて。



 『THE LADY VANISHES』

 監督/アルフレッド・ヒッチコック
 脚色/シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー (コンビで主筆)
      アルマ・レヴィル (ヒッチ夫人。夫妻は細かい直し)
 原作/エセル・リナ・ホワイト
 撮影/ジャック・コックス
 音楽/ルイ・レヴィ
 製作/エドワード・ブラック

 ゲインズボロー・プロ 97分
 
19:05  |  ヒッチコック全作品  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック全作品】 2012.07.19 (Thu)

『巌窟の野獣 (1939英)』

(ヒッチコック全作品) 
23.岩窟の野獣

 ≪感想≫
 C・ロートンの人を食った悪役ぶりや、美しいM・オハラの気丈なヒロイン像はハマっていて上手かったが、せまい仲間うちだけでスッタモンダやってる物語自体にまったく緊張感を感じない。
 ヒッチにすれば心はすでにハリウッド。先にロートンと交わしていた、共同制作の約束を果たすためだけの仕事だったのだろう。(ヒッチの渡米が決まり、ロートン側があわてて持ってきた企画だそうだ。)



 A・ヒッチコック監督第23作 『巌窟の野獣 (1939英)』

 出演/チャールズ・ロートン (ペンガラン卿)
     モーリン・オハラ (メアリー)
     ロバート・ニュートン (ジェム・トレハーン)
     レスリー・バンクス (叔母の夫ジョス)
     マリー・ネイ (叔母ペイシャンス)

 ≪あらすじ≫
 19世紀初頭のイギリス、海賊が横行する港町コーンウォール。母を亡くしたメアリーは、この地で宿屋“ジャマイカ亭”を営む叔母のもとに身を寄せる。そこで叔母の夫が海賊の首領だと知った彼女は、判事のペンガラン卿を頼るのだが、このペンガランこそ海賊を陰であやつる悪の黒幕だった。

 ≪解説≫
 ヒッチのイギリス時代最後の作品。
 主演・製作者C・ロートンの秘蔵っ子で、のちにジョン・フォード監督に重用される女優M・オハラの出世作。 ヒッチとフォードは同じアイルランド系で女優の好みが似通っていた(マデリン・キャロル、M・オハラ、グレース・ケリー、ヴェラ・マイルス…)こともあってか、ハリウッドではフォードがよくスタジオに遊びに来ていたそうだ。
 撮影のH・ストラドリングは、のちにハリウッドで 『イースター・パレード』 『マイ・フェア・レディ (オスカー受賞)』 など数々の傑作ミュージカルを手がけた名手 (『愛情物語('56)』 が素晴らしかった!)。 ヒッチ作品も 『スミス夫妻』 『断崖』 を担当。

 ≪ヒッチ渡米≫
 '37年の初アメリカ旅行で、映画文化を尊重するアメリカ社会に触れたヒッチ一家。 各地で歓待され、ハリウッド各社によるヒッチコック争奪戦もはじまる。
 すでにイギリス映画界の頂点を極めていたヒッチは、母国の居心地に満足していたのだが、アルマ夫人には 「映画より演劇」 意識が露骨なイギリス階級社会が我慢ならないものになっていた。また、ヒッチが孤軍奮闘する同映画界の惨たんたる低迷や、第2次大戦前夜の不穏な情勢 (--ドイツのポーランド侵攻はヒッチ渡米直後の'39年9月1日、英仏の対独宣戦布告は同3日--) もヒッチの渡米を後押し。
 そしてヒッチは、もっとも熱心に働きかけてきたハリウッドの辣腕プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニックと契約を交わし、1939年3月1日、アルマ夫人とひとり娘パトリシアを伴ってアメリカに移住する。
 その記念すべき第1作は、はじめ冒険ロマンス 『タイタニック』 が予定されていたが、ヒッチ側の意向により文芸ミステリー 『レベッカ』 に決定。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 不明。(時代劇なので、わざわざ衣装をあつらえてまで出ていない?)



  『JAMAICA INN』

 監督/アルフレッド・ヒッチコック
 脚本/シドニー・ギリアット
     ジョーン・ハリソン (ヒッチのブレイン。各証言からヒッチの代理クレジットと思われる。)
 原作/ダフネ・デュ=モーリア
 撮影/ハリー・ストラドリング、バーナード・ノウルズ
 音楽/エリック・フェンビー
 製作/エーリッヒ・ポマー (ヒッチの監督デビュー作 『快楽の園』('25英独)のドイツ側製作者。)
      チャールズ・ロートン (メイフラワー社は彼の会社。)

 メイフラワー・ピクチャーズ 98分

23:36  |  ヒッチコック全作品  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2012.07.07 (Sat)

≪ヒッチコック全作品≫もくじ

ヒッチコック
  ≪アルフレッド・ヒッチコック監督全53作品レビュー≫もくじ

 英1.もくじ、『快楽の園』~『リング』
 2.『農夫の妻』~『殺人!』
 3.『いかさま勝負<スキン・ゲーム>』~『間諜最後の日』
 4.『サボタージュ』~『厳窟の野獣』、もくじ・・・

 米1.もくじ、『レベッカ』~『疑惑の影』
 2.『救命艇』~『山羊座のもとに』
 3.『舞台恐怖症』~『ハリーの災難』
 4.『知りすぎていた男』~『マーニー』
 5.『引き裂かれたカーテン』~遺作 『ファミリー・プロット』



   『ファミリー・プロット ('76)』 ~遺作
   『フレンジー (’71英米)』
   『トパーズ (’69)』
50『引き裂かれたカーテン(’66)』
   『マーニー (’64)』
   『鳥 (’63)』
   『サイコ (’60)』 ~円熟期

  『北北西に進路を取れ (’59)』
  『めまい (’58)』
  『間違えられた男 (’57)』
  『知りすぎていた男 (’56)』
  『ハリーの災難 (’56)』
  『泥棒成金 (’55)』
40『裏窓 (’54)』
  『ダイヤルMを廻せ!(’54)』
  『私は告白する (’52)』
  『見知らぬ乗客 (’51)』 ~黄金期

  『舞台恐怖症 (’50)』
  『山羊座のもとに (’49)』
  『ロープ (’48)』
  『パラダイン夫人の恋 (’47)』
  『汚名 (’46)』
  『白い恐怖 (’45)』
   (『闇の逃避行(’44英)』 『マダガスカルの冒険(’44英)』 ~戦下の英政府による国策短編
30『救命艇 (’43)』
  『疑惑の影 (’43)』
  『逃走迷路 (’42)』
  『断崖 (’41)』
  『スミス夫妻 (’41)』
  『海外特派員 (’40)』
  『レベッカ (’40米)』 ~渡米第1作。アカデミー作品賞。


  『巌窟の野獣 (’39英)』
  『バルカン超特急 (’38)』
  『第3逃亡者 (’37)』
 20『サボタージュ (’36)』
  『間諜最後の日 ('36)』
  『三十九夜 ('35)』
  『暗殺者の家 ('34)』 ~以後サスペンスに専念。イギリス黄金期。

  『ウィーンからのワルツ ('33)』
  『第17番 ('32)』
  『おかしな成金夫婦<リッチ・アンド・ストレンジ>('32)』
  『いかさま勝負<スキン・ゲーム>('31)』
  『殺人!('30)』
  『ジュノーと孔雀 ('30)』
   (『エルストリー・コーリング ('30)』 ~一部だけ監督したお祭り映画
 10『恐喝<ゆすり>(’29)』 ~イギリス初のトーキー映画

  『マンクスマン ('28)』
  『シャンペン ('28)』
  『農夫の妻 ('27)』
  『リング ('27)』
  『ふしだらな女 ('27)』
  『下り坂<ダウンヒル>('27)』
  『下宿人(’26)』 ~初のサスペンス
  『山鷲 ('26英独)』 ~現存せず
 1『快楽の園('25英独)』 ~監督デビュー作

 
17:47  |  ヒッチコック米時代  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2012.06.27 (Wed)

『レベッカ (1940米)』

(ヒッチコック全作品) 
24.レベッカ

 ≪感想≫
 現代人からすれば、もとが浮世離れしているマンダレーの住人より、終始オドオド・ペコペコしているヒロインのほうに問題を感じてしまう。日本娘ならともかく、アメリカ娘がここまでオドオド・ペコペコはないだろう。(実際、当時新進のフォンテーンは、ヒッチやオリヴィエら母国イギリスの大物に厳しくされて怯えていたのだそうだ。そう望んだヒッチの責任ではあるが、アルマ夫人や脚本J・ハリソンは 「びくびくしすぎ」 と起用に消極的だったという。)
 ヒッチ自身、「英米映画の違いは、女性にも受けるよう作らなければならないかどうかだ」 と言及しているが、これでは当時から古臭かったことだろう。 まだ 「イギリス・コンプレックス」 が (辛うじて!) 生きていた時代の、高貴な身分に嫁ぐことが無条件の幸福とされた時代だからこそのおとぎ話だ。21世紀にはもう通じない。



 A・ヒッチコック監督第24作 『レベッカ (1940米)』

 出演/ローレンス・オリヴィエ (マキシム・ド・ウィンター公)
     ジョーン・フォンテーン (公爵夫人)
     ジュディス・アンダーソン (ダンヴァース夫人)
     ジョージ・サンダース (ファヴェル)

 ≪あらすじ≫
 イギリスの貴族ド・ウィンター公と結婚したアメリカ娘が、謎の死を遂げた公の前妻レベッカの影に脅かされる。何かにつけレベッカの名を口にする家政婦ダンヴァース夫人。レベッカの死の真相をめぐってマンダレーの森に戦慄が走る…!

 ≪解説≫
 ヒッチが記念すべき渡米第1作に選んだ、ロマンティック・ミステリーの名作。端麗なモノクロ映像が織りなす美しくも恐ろしき世界。
 足音なくすぅーっと現れるダンヴァース夫人の冷たさ生気のなさ。 名前もなく肩書きだけで呼ばれる自己の否定と喪失感。そして死せるレベッカがすぐそばに生きて(--レベッカ目線のカメラワーク!--)、自分を飲み込んでいくような錯覚・・・。そんな 「まぼろしの存在感」 が怖い。
 モンスターや鮮血など視覚で怖がらせることは簡単だが、恐怖の対象を最後まで 「見せない」 ことの怖さを知り、それで実際に物語をもたせてしまうヒッチの確かな手腕。遺品や署名など、亡きレベッカの 「存在感」 が次第に増していく小道具使いも巧い。

 ヒッチコック作品を代表する悪役で、陰湿な 「嫁イジメ」 を見せるダンヴァース夫人は、「米映画協会AFIが選ぶ歴代悪役」 の第31位にもランクされている。(ちなみに同2位が 『サイコ』 のノーマン・ベイツ。)
 製作のセルズニックは、前年の 『風と共に去りぬ』 の歴史的成功で絶頂を極めた大物プロデューサー。 ヒッチのアメリカ進出を画策した (当時ヒッチ41歳、セルズニック38歳)
 アカデミー作品賞、モノクロ撮影賞受賞。(下の追記にセルズニックとオスカー裏話)

 ≪ヒッチはここだ!≫
 終盤、電話ボックスを出たファヴェル氏が警官とからんでいる後ろを通り過ぎる。
 ・・・とされているが後ろ姿なので確信は持てない。 スチール写真は残っているが、実際の登場場面はカットされたという話もある。



  『REBECCA』

 監督/アルフレッド・ヒッチコック
 脚本/ロバート・E・シャーウッド  (最終的な仕上げ。実際はマイケル・ホーガンが主筆。)
     ジョーン・ハリソン (ヒッチの個人ブレイン。ここではヒッチの代理クレジットと思われる。)
 原作/ダフネ・デュ=モーリア
 撮影/ジョージ・バーンズ (アカデミー白黒撮影賞)
 音楽/フランツ・ワックスマン
 製作/デヴィッド・O・セルズニック

 セルズニック・インターナショナル・ピクチャーズ 130分
 
21:31  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【ヒッチコック米時代】 2012.06.16 (Sat)

『海外特派員 (1940米)』

(ヒッチコック全作品) 
25.海外特派員

 ≪感想≫
 オランダ風車の怪や洋上の飛行機撃墜など大掛かりな冒険の連続はもちろんですが、ひょうひょうとしたヴァン・メアや先祖が首を切られた「ff」フォリオット記者、カーチェイスのせいで道を渡れない老人など、合間合間のユーモアも乗っていて本当に飽きさせない。
 どこまでも明るく軽快・痛快な娯楽作、これが日米開戦前夜のきな臭い時局に作られたとはあらためて驚かされた。 しかも同時に、格調高い 『レベッカ』 も作ってしまうヒッチの懐の深さ。 最高のハリウッド・デビュー。

 英ウェストミンスター大聖堂での殺し屋おやじ (おなじみエドマンド・グゥエン) のカメラ目線に思わずドキッ。 『裏窓』 のソーウォール氏、『知りすぎていた男』 の教会のおばちゃんと並ぶ、ヒッチの 「三大カメラ目線」 だ。



 A・ヒッチコック監督第25作 『海外特派員 (1940米)』

 出演/ジョエル・マックリー (ジョニー・ジョーンズ)
      ラレイン・デイ (キャロル・フィッシャー)
      ジョージ・サンダース (フォリオット記者)
      ハーバート・マーシャル (キャロルの父フィッシャー)
      アルバート・バッサーマン (ヴァン・メア)

 ≪あらすじ≫
 第二次大戦前夜。アメリカの新聞記者ジョニーは、海外特派員として緊迫するヨーロッパに飛ぶ。彼は開戦のカギを握る政治家ヴァン・メアを取材するが、メアは公衆の面前で暗殺されてしまう。ヴァン・メアが残した秘密条約をめぐって、ジョニーと悪の組織との対決が繰り広げられる。

 ≪解説≫
 渡米第1作の 『レベッカ』 と並行して作られた娯楽冒険サスペンス (アカデミー作品賞にWノミネート。『レベッカ』 が受賞)。 大がかりなスペクタクル活劇の中、傘の花が乱舞する暗殺シーンが秀逸。
 時代は日米開戦前夜、刻々と変化する現実の世界情勢を追うように製作。「戦火のイギリスを見捨てた」 という負い目のあるヒッチにとって、戦意高揚をあおる作品づくりは祖国への罪滅ぼしの意味もあった。(ラストの主人公の演説は、たまたま立ち寄ったジョン・フォード監督 --ヒッチと同じアイルランド系の縁-- が演技指導したのだとか。)

 ヒッチたっての依頼で巨大セット群をプロデュースしたのは、ウィリアム・キャメロン=メンジーズという名匠。美術装置部門の地位向上に努めた人で、前'39年の『風と共に去りぬ』でアカデミー美術賞を受けているほか、ヒッチの 『白い恐怖('45)』では有名な悪夢のシーンの演出もしている(失敗作だと思った本人の希望でノンクレジット)

 ≪「マクガフィン」について≫
 物語のカギは“秘密条約”であるが、最後までこの条約の実体は明らかにされない。ヒッチはこれらカギとなる設定を 「マクガフィン」 と呼んでいるが、本作に限らず余計な意味づけは一切なされていない (後の 『北北西…』 でのマイクロ・フィルムが好例)。
 つまり秘密文書の内容が何であろうが、悪の組織がどういう人たちで構成されていようが、どうでもいいことなのだ。むやみに 「マクガフィン」 に意味づけして観客を煩わすより、単純な設定のもとで主人公の波乱万丈の冒険を描くことこそ、ストーリーテラーとしての身上だとしている。
 反面、「娯楽映画の職人監督」 として芸術面では長く軽視される原因にもなった。

 ≪ヒッチはここだ!≫
 13分、主人公が振り返った瞬間にすれ違う、新聞を読んでいる男。



 『FOREIGN CORRESPONDENT』

 監督/アルフレッド・ヒッチコック
 脚本/チャールズ・ベネット、ジョーン・ハリソン
 撮影/ルドルフ・マテ
 音楽/アルフレッド・ニューマン
 美術/アレクサンダー・ゴリツェン、ウィリアム・キャメロン・メンジーズ(総監督)
 製作/ウォルター・ウェンジャー

 ウェンジャー・プロ=ユナイト 120分
 
12:32  |  ヒッチコック米時代  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑