【アカデミー賞全作品】 2015.04.07 (Tue)
『真夜中のカーボーイ (1969米)』

≪感想≫
海の外から描いたアメリカ批評は痛烈のきわみ。富裕層の傲慢さと対比させて観客の同情を呼ぶ見せ方もあるが、カメラが追うのはあくまで底辺の若者ふたりだけ。逃げ場のない悲劇が突き刺ささる。
ただ、マッチョで単細胞なカウボーイと、カネがすべてで他人に無関心なニューヨーカーなどなど、マンガチックなほどステレオタイプなアメリカ像。当のアメリカ人はここまで露骨に描くのはこっ恥ずかしいけど、作ったのは外国人だから「よくぞ言ってくれた」みたいな感覚だったのかな。
一番興味深いのはそこ。作品そのものより本作にオスカーを授けたアメリカ側の反応。それまで良くも悪くも唯我独尊だったアメリカが、外国人に注目してもらって喜んでいるのは、ヒステリックな「世界に誇るニッポン」みたいで見ていられないほど情けない。いかに当時のアメリカが自信を失っていたがが伝わってくる。(そういう設定に簡単に置き換えられるかも。時代錯誤なアメリカのカウボーイが、世界を手玉に取ろうと海を出てきて惨敗する話。)
でもそうやって、外からの才能を貪欲に 「アメリカ」 に取り込んでは、再び膨張していくのだろう。シュレシンジャーもこのあと、見事にアメリカの映画監督になった。
・・・ところで、なぜ邦題は『カーボーイ』なのか? 都会だからカーなのか? 都会だけどカウボーイというところに皮肉があるのだが。また水野晴郎のしわざか?
オスカー度/★★☆
満足度/★★★
『真夜中のカーボーイ (1969米)』
監督/ジョン・シュレシンジャー
主演/ジョン・ヴォイト (ジョー・バック)
ダスティン・ホフマン (”ラッツォ(ネズ公)” エンリコ・リッツォ)
≪あらすじ≫
大都会ニューヨークで一旗あげようと、テキサスの田舎町を飛び出した青年ジョー。時代錯誤のカウボーイを気取る彼は、都会の金持ち女たちを手玉に取ろうと息巻くが、相手にされるはずはない。
やがてサギ師ラッツォとの間に友情が芽生えるが、男相手に体を売らされるジョーと肺病を患うラッツォ、ふたりはどん底の生活に落ちぶれていく・・・。
≪解説≫
大都会で夢破れ、社会の底辺であがく若者たちを描いた社会派ドラマ。
イギリスのニューシネマ運動 「怒れる若者たち」 のシュレシンジャー監督がアメリカ映画デビュー。もとはTVドキュメンタリーを得意としただけあって、現在進行形の文明社会を痛烈にえぐってみせた。
ヒットした主題歌 『うわさの男(Everybody's Talkin')』 の軽快なメロディが、皮肉な効果を醸し出していて切ない。(既成曲だったので主題歌賞にはノミネートされていない。受賞は『明日に…』の 『雨にぬれても』。)
≪受賞≫
アカデミー作品、監督、脚色賞の計3部門を受賞。(候補7部門中)
(他の作品賞候補 『明日に向かって撃て!』 『1000日のアン』 『Z』 『ハロー・ドーリー』)
この年沸点に達したベトナム反戦運動などの社会混乱を背景に、ハリウッド従来の夢と娯楽を否定して、若者の反発と挫折を真正面から描いたムーブメント 「アメリカン・ニュー・シネマ」 が初の作品賞。
一方、このボイトとホフマンのW候補を退けて念願の主演男優賞を初受賞したのが、『勇気ある追跡』で老保安官を演じたジョン・ウェイン。かたや新世代の革新の旗手と、かたや保守タカ派を代表する大御所・・・。ニューシネマの傑作 『明日に向かって撃て!』 も含めて 「カウボーイの年」 と呼ばれたこの年は、新旧の価値観が入り混じる変革の時代を象徴する授賞式になった。
『MIDNIGHT COWBOY』
製作/ジェローム・ヘルマン
監督/ジョン・シュレシンジャー
脚本/ウォルド・ソルト
原作/ジェームズ・レオ・ハーリヒー
撮影/アダム・ホレンダー
音楽/ジョン・バリー(音楽監督)
主題歌/ニルソン 『うわさの男』
シュレシンジャー=ユナイト/113分
【続き・・・】
◆男女の主演賞に注目が集まった。
男優賞は前述のとおり保守派の大御所ジョン・ウェイン。ベトナム戦争支持などそのタカ派思想は、反体制の時代にあって大きな反発と人気凋落を招いたが、(無冠の大物への「お情けオスカー」ながら、)この受賞で再び国民的ヒーローとしての存在感を取り戻した。
女優賞はジェーン・フォンダ(『ひとりぼっちの青春』)とライザ・ミネリ(『くちづけ』)、華やかな二世スターの争いとされたが、イギリスの実力派マギー・スミス(『ミス・ブロディの青春』)が漁夫の利をさらった。フォンダは2年後の'71年に(『コールガール』)、ミネリはその翌'72年(『キャバレー』)に受賞して雪辱を果たしている。
◆ぼくは今の今まで、シュレシンジャー(Schlesinger)監督を「シュレンジャー」だと思ってました。すみません。
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