【アカデミー賞全作品】 2015.09.11 (Fri)
『クレイマー、クレイマー (1979米)』

≪感想≫
ありのままに、繊細に、よく目が行き届いた作りに感心しきり。単なる愛情物語にとどまらず、現実的で痛々しい法廷闘争にまで踏み込んだ点も秀逸だった。
妻が家を捨てた理由など深い事情をほじくり過ぎることなく、どの家庭にも通じる事として単純化してあるのは、本作が長く広く支持されているゆえんでしょう。彼女の決断、そのファーストシーンの苦渋の表情は、世の女性が受けてきた過去数百年の仕打ちの果てが込められている。
夫目線の運びなので妻には圧倒的に不利な作りですが、自分には見えない相手の立場や考え(あるいは自分自身のふるまい !)をどれだけおもんばかってあげられるか。彼ら同様われわれ観客も成長しながら、何度も見直す価値のある名作です。
何より、一番つらく悲しい思いをする子供の痛みがグサリと胸に突き刺ささる。ジャスティン君には、話題性抜きにして史上最年少オスカーをあげればよかったのに。親子3人の素晴らしい演技を含めて、現代家庭劇の原点を見させてもらいました。
なお、音楽はバロック期の作曲家H・パーセルとあるが、有名なテーマ曲はヴィヴァルディ作品じゃないの? インターネットなどない時代に、この曲を探して何年も回り道してしまった。
オスカー度/★★★
満足度/★★★
『クレイマー、クレイマー (1979米)』
監督/ロバート・ベントン
主演/ダスティン・ホフマン (テッド・クレイマー)
メリル・ストリープ (ジョアンナ・クレイマー)
ジャスティン・ヘンリー (ビリー・クレイマー)
ジェーン・アレキサンダー (マーガレット)
≪あらすじ≫
ある日、クレイマー家の平凡な主婦ジョアンナが、夫テッドと息子ビリーを残して家を出て行った。
仕事一筋のテッドは訳も分からぬまま、幼いビリーとふたりきりの生活に直面する。慣れない家事や育児に四苦八苦するテッド。ようやく父子の絆が芽生えはじめたその時、ジョアンナがビリーを引き取りたいと裁判を起こすのだった。
≪解説≫
突然訪れた家庭の崩壊、そのてん末を温かくも痛切(「vs.」がついた原題はじつに痛切だ)に描く。
父子の絆がフレンチ・トーストを象徴として深くなっていく様が印象的。このへんのやり取りは自然な雰囲気を出すため、ホフマンのアドリブやジャスティン君のアイディアがふんだんに取り入れられたそうだ。
反体制的なニュー・シネマ時代を終えたこの頃、家庭崩壊というシビアな現実を描きながら、反面教師として「家庭の復興」を訴えようとする姿勢は、翌年の作品賞『普通の人々』とともに伺える。
≪受賞≫
アカデミー作品、監督、主演男優(D・ホフマン)、助演女優(M・ストリープ)、脚色賞の計5部門受賞。(候補9部門中)
(他の作品賞候補 『地獄の黙示録』 『オール・ザット・ジャズ』 『ノーマ・レイ』 『ヤング・ゼネレーション』)
興行面でも批評面でも広く成功。アメリカン・ニュー・シネマの集大成とされた最大のライバル 『地獄の黙示録』 (カンヌ・パルムドール、撮影、音響賞)を制す。
かつては俳優が賞を争うアカデミー賞を批判していたホフマンだが、受賞時のスピーチではお茶を濁して「和解」をアピール。皮肉にも反体制的なニュー・シネマ時代の終焉を印象づけた。
『KRAMER VS. KRAMER』
製作/スタンリー・R・ジャッフェ
監督/ロバート・ベントン
脚本/ロバート・ベントン
原作/エイヴリー・コーマン
撮影/ネストール・アルメンドロス
音楽/ヘンリー・パーセル (テーマ曲/ヴィヴァルディ 『マンドリン協奏曲ハ長調RV425』)
ジャッフェ=コロンビア/105分
【続き・・・】
カンヌ映画祭との関連が目立った――。
◆ライバル候補作 『地獄の黙示録』と外国語映画賞『ブリキの太鼓』は、同年のカンヌ最高賞パルムドール。『オール・ザット・ジャズ』 は翌'80年のパルムドール受賞作。
◆同じく作品賞候補 『ノーマ・レイ』もカンヌ出品。その主演サリー・フィールドは双方で女優賞受賞という快挙。
◆ほか、当時の史上最年少ノミネート、8歳のジャスティン君はこの夜一番の注目を集めたが、助演男優賞は『チャンス』の78歳メルヴィン・ダグラスが再冠。
◆裁判シーンでの法廷速記者は本職の女性。長年、離婚裁判に関わってきたがつらすぎてやめたという。今は殺人事件の担当。離婚の暗さに比べたら天国だそうだ。(ホフマンの撮影裏話)
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