【アカデミー賞全作品】 2017.02.16 (Thu)
『クラッシュ (2005米)』

≪感想≫
驚くほど心に残らなかった。
過激で扇情的なセリフの応酬、ラストに答えを明示せず「深い余韻」があるように見せる作り。近年のハリウッドではこの手の作劇がもてはやされているようだが、ただ無責任にもったいぶった悲観づらをしているだけ。 個々の人間描写は浅く断片的なので、誰ひとり同情も嫌悪も起こさせない。
エピソードの切り張りに腐心しただけのような、「コピペ」時代ならではの構成。シナリオ学校のマニュアルを出ていないP・ハギスという男の仕事を、ハリウッドが本当にありがたがっているなら不幸だ。
オスカー度/★☆☆
満足度/★☆☆
『クラッシュ (2005米)』
監督/ポール・ハギス
主演/ドン・チードル (グラハム刑事)
マット・ディロン (ライアン巡査) (・・・「デイモン」じゃなくて「ディロン」の方でした。訂正)
クリス・“リュダクリス”・ブリッジス (自動車強盗アンソニー)
ブレンダン・フレイザー (検事リック)
サンドラ・ブロック (検事の妻ジーン)
≪あらすじ≫
被害妄想に取りつかれた黒人青年と、彼に車を盗まれた地方検事夫妻。人種差別主義の白人警官と、彼に辱められた裕福な黒人女性。悪質ないやがらせに憤るペルシャ人店主・・・。善良な市民が人を殺め、心優しい家族思いが無神経に人の尊厳を傷つけている悲劇。
≪解説≫
ひとつの交通事故を軸に、ひたすら人間の 「悪意」 を交錯させて、人種差別や社会の不寛容を浮き彫りにする群像劇。
イラクやアフガンで暴虐の限りを尽くし、世界の敬意と信頼を失ったアメリカ。ハリウッドも秀作ヒット作を出せず低迷し、アカデミー賞どころではない世相の中、内向きで深刻な内容の作品に落ち着いた。
≪受賞≫
アカデミー作品、オリジナル脚本、編集賞の計3部門受賞。
(他の作品賞候補 『ブロークバック・マウンテン』 『ミュンヘン』 『カポーティ』 『グッドナイト&グッドラック』)
またも本命不在の中、ヴェネチア最高賞『ブローク…』が優勢とされたが同性愛テーマが敬遠されたのか、ほとんど無印の本作が作品賞。全編カナダロケで外様スタッフばかりの 『ブローク…』 に対し、本作は全編L.A.ロケでスタッフも地元の身内。そのへんもアカデミーの票を集めやすかったらしい。
S・スピルバーグ監督の 『ミュンヘン』 はミュンヘン五輪テロとその報復合戦を描いた力作だったが、ユダヤ側の非道も見つめる突き放した視点は政治的な支持が得られなかった(無冠)。
『CRASH』
製作/ポール・ハギス、キャシー・シュルマン
監督/ポール・ハギス
脚本/ポール・ハギス、ボビー・モレスコ
撮影/J・マイケル・ミューロー
音楽/マーク・アイシャム
編集/ヒューズ・ウィンボーン
ライオンズゲート/112分
【続き・・・】
この年も、演技賞は「伝記もの」「人気スターのシリアスもの」 など分かりやすい・賞を取りやすいものが並んだ――
◆主演男優賞は 『カポーティ』 のフィリップ・シーモア・ホフマン。『冷血』『ティファニーで朝食を』で知られる米作家の伝記もの。自ら制作会社を興しての映画化。
◆ 主演女優賞は 『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』 の若手スター、リース・ウィザースプーン。実在のカントリー歌手の妻を演じた。
◆助演男優賞は 『シリアナ』 のジョージ・クルーニー。国際的な石油利権の陰謀を追うオールスター群像劇で、冴えないCIA諜報員を演じて初候補初受賞。
製作総指揮にも名を連ねた彼はこの年、自作自演の 『グッドナイト&グッドラック』 でも監督・脚本賞にノミネートされていた。(こっちのほうがよっぽどマシな出来。)
◆助演女優賞は 『ナイロビの蜂』 の美女レイチェル・ワイズ。アフリカの薬ビジネスをめぐるサスペンスで、物語の軸となる主人公の妻を演じた。
『クラッシュ』ほかの「3勝」がこの年の最多――
◆『ブロークバック・マウンテン』 は監督・脚色・音楽で3勝。台湾出身のアン・リー監督はアジア人初の監督賞('12年にも受賞)。
◆チャン・ツィイイー主演、渡辺謙共演の 『SAYURI』 が撮影・美術・衣装で3勝。アメリカ映画不作を埋めるように、アジア勢の健闘が目立った。
◆ピーター・ジャクソン監督(『ロード・オブ・ザ・リング』)がリメイクした 『キング・コング』 が特撮部門で3勝。
◆長編アニメ賞は人気クレイアニメの初長編映画 『ウォレスとグルミット/ 野菜畑で大ピンチ!』。ニック・パーク監督は1990年、処女作にして同シリーズ第1作『チーズ・ホリデー』と、『快適な生活~ぼくらはみんないきている~』が短編アニメ賞にWノミネートされ、後者で受賞して以来のオスカー。
ちなみに宮崎駿監督の『ハウルの動く城』も候補だった。
◆名誉賞にロバート・アルトマン監督。 『M★A★S★H』 や 『ショート・カッツ』 など欧州3大映画祭で数々の栄誉に輝きながら、オスカーは未冠。ハリウッドにありながら商業主義におもねらない作家性は、映画人たちから広く尊敬を集めていた。スピーチでは大手術をしていたことを明かし、ほどなく81歳で亡くなった。
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