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【日本映画】 2008.09.06 (Sat)

黒澤明没後10年 『七人の侍』

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 今'08年9月6日は、黒澤明監督の没後10年です。
 NHK-BSでは 『七人の侍』 ('54年東宝)を放送するそうですが、待ちきれなくってビデオで観ました。年に1~2回は観ているので、これまで何回何十回観たことか。(実はこの春にも観たばかり。)
 何度でも飽きることがない映画史上最高の大傑作。そのスゴイところはあちこちで語りつくされているのですが、自分の好きなセリフやらシーンやらを長々と挙げてみます。
 (なお「百姓」という呼び方は今日では差別的なのだそうですが、便宜上使用します。平に平に。)



  ≪「密室」での激闘!≫                                         

 『七人の侍』 といえば、見せどころはやっぱりクライマックスの合戦シーン。
 ただし「合戦」といっても関ヶ原や川中島のような大スペクタクル絵巻ではなく、名もない小さな村での侍+百姓 vs 野武士軍団、たかだか数十人の戦い。それが空前絶後の迫力を生んだゆえんは、小さくて狭いからこその「密室」の恐怖にあります。考えてみたら、逃げ場のある荒野の決闘より、切っ先が触れあう狭い四畳半の中で戦うほうが絶対こわい!
 なによりカメラは一緒に現場に飛び込むしかないし、役者たちもそこかしこから撮られて気を抜けません。『七人の侍』 が発見したこの 「密室の迫力」 は、工藤栄一監督の 『十三人の刺客 ('63)』 などに受け継がれました。

 そんな怒涛の展開でも一番心ひかれたのが、土砂降りの中、弓を射る勘兵衛 (志村喬) の雄姿! 本作をはじめて観たのはWOWOWでの放送でしたが、その予告CMで強烈に焼きついたのが最初の出会い。「名作名作って、どうせ日本人の身びいきだろう」とタカをくくっていたのを、見事に打ちのめされました。
 ・・・ちなみに 「土砂降り」 の激闘も、日本のチャンバラがアメリカ西部劇の 「荒野の土ぼこり」 に勝つには何か、と黒澤らが考えた末の答え。 撮影は真冬だったそうで、そういう製作裏話だけでも現代モヤシっ子のド肝を抜くこと請けあいです。



  ≪物語の積み重ね≫                                          


 テーマや課題をひとつひとつ積み上げていく、戦略的な物語づくり。口の悪い人足から菊千代 (三船敏郎) の下ネタに笑うばあさん連中まで、意味のないキャラクターや場面などひとつもありません。
 たとえば勝四郎 (木村功)志乃 (津島恵子) の 「お花畑ラブ」 は甘ったるくて余計という声も聞きますが、あれがあるから 「ブルルル・・・ヒヒーン!」 のドキッと感が生きてくる。甘くかったるいラブ・シーンから、恐れていた最凶最悪の事態へ・・・。黒澤組の脚本は静と動、緩と急、因果と応報・・・、そんな理詰めのメリハリが実にうまい!
 「今日も明日も戦います」 じゃ、観客の緊張は長続きしません。戦いの合間に、どうってことない笑いや甘いシーンをはさむことで、次の恐怖と興奮が増幅される。沈鬱な葬儀のあとの野武士襲来や、菊千代のコミカルな種子島銃奪取のあとの痛烈なしっぺ返しなどなど・・・。

 「こうくればああする」「エースがだめならジョーカー」 と難問突破のアイディアを競い合った脚本陣 (黒澤、橋本忍、小国英雄) の執筆バトル、しんどいけど楽しかっただろうなあ! 黒澤晩年の作品がつまらないのは、ひとつはそんな共同脚本体制をやめてしまったこと。イエスマンばかり残った独裁主義のなれの果てが残念・・・。
 ・・・はさておき、敵をひとり倒すごとに書き加えられていくバツ印も、「積み重ね」 のおもしろさの最たる例です。あれにはワクワクさせられました。



  ≪練り上げられた個性≫                                        


 黒澤みずからノート何10ページにわたって練り上げた、個性あふれるキャラクターたち。よくジョークで 「アメリカ人が好きなのはリーダー勘兵衛、フランス人はニヒルな久蔵が、そしてイタリア人には底抜けに明るい菊千代が人気」 などと言われています。・・・と、能書きばかりじゃ退屈だろうから、こんなこと考えてみました。題して、≪リメイクするならこのキャスティング!≫

勘兵衛(志村喬)…    円楽さん(タラコくちびるのリーダーということで。)
菊千代(三船敏郎)…  木久蔵さん(むちゃくちゃだから。)
久蔵(宮口精二)…    歌丸さん(一番の実力派。らっきょ顔も一緒。)
五郎兵衛(稲葉義男)… 楽太郎さん(リーダーを支える副将格。円楽さんの直弟子だから。)
平八(千秋実)…     こん平さん(苦しい時には重宝するムードメーカー。)
七郎次(加東大介)…  小遊三さん(なんか、そういうポジション。)
勝四郎(木村功)…    好楽さん(一番若いから。)

志乃(津島恵子)…    山田くん(「明日みんな、座布団取られちまうんだべ!」)


 意外とぴったりハマってしまった・・・。


 ちなみに、ある者は命を落とし、ある者は生き残る 「七人の侍」 たち。その生死の順番が、実際の役者の物故とまるっきり反対なのは知る人ぞ知るトリビア。ネタバレですがまとめてみました。

 加東大介 (七郎次) ・・・1975年没(64歳)
 木村功 (勝四郎)  ・・・1981年没(58歳)
 志村喬 (勘兵衛)  ・・・1982年没(76歳)・・・ここまでが劇中での生き残り組。
 宮口精二 (久蔵)  ・・・1985年没(71歳)
 三船敏郎 (菊千代) ・・・1997年没(77歳)
 稲葉義男 (五郎兵衛)・・・1998年没(77歳)
 千秋実 (平八)    ・・・1999年没(82歳)


 宮口(久蔵)と三船(菊千代)の順番が逆なくらいです。




休憩
♪てーてーてー、てーーてて・・・






  ≪チョイ役キャラ・ベスト3!≫                                     


 第1位:久右衛門の婆さま (老人ホームのキクさん)
 第2位:立てこもり盗賊 (東野英治郎)
 第3位:木賃宿の弱い浪人(林幹)と琵琶法師(上山草人)


 3位は人足たちに身ぐるみ剥がれ、琵琶法師に 「辛気臭い!」 と八つ当たりする浪人(林幹)。弱いくせに偉そうな態度が情けなくもおかしい。いつの世も 「えらい身分」 の人なんて十中八九はこんなものだ。
 かたや琵琶法師は、とにもかくにも怪優・上山草人の強烈な存在感! 「少年ジャンプ」最盛期の怪作『珍遊記』にも、そっくりの琵琶法師が出ていました。

 2位はごぞんじ 「初代黄門さま」 (『用心棒』では「2代目黄門」西村晃さんとニアミス共演している)。侍のリーダー勘兵衛(志村喬)の 「智・仁・勇」 を引き立てる損な役回りですが、斬られた後のつま先立ちがセクシィ(?)。
 このときスローモーションで地に倒れる今では定番のやられ演出は、本作から世界中の映画に広まったのだとか (黒澤の発明かは未確認。ただ監督デビュー作『姿三四郎('43)』のラストもそうだった)。

 1位は、野武士に一家皆殺しにされた村の老婆。顔に深く刻まれたシワが壮絶極まりなく、クワを抱えて野武士に復讐するシーンは、その怨念の深さ重さに思わず言葉を失います。
 助監督氏によると実はこのお婆さん、杉並の老人ホームで見つけたまったくの素人で、実際に東京大空襲ですべての身寄りをなくした方なのだとか。撮影では自身の戦争体験を語らせて、あとでプロ(三好栄子)による吹き替えをしたのだとか。戦後わずか9年(!)ならではの生々しさが伝わってきます。



  ≪名セリフ集だで≫                                           

 菊千代 「百姓ってのはな、けちんぼで、ずるくて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで・・・人殺しだ!」
 「落ち武者狩り」 の事実をめぐって、侍と百姓の間に広がる亀裂。しかし「百姓」以上「侍」未満の菊千代(三船)が百姓の本質をあばくと同時に、それを強いた侍たちの横暴を糾弾する名シーン。
 たとえ生死の運命を共にしても、侍と百姓はしょせん相容れぬ同士。その矛盾を代弁するのが百姓生まれの菊千代であり、すでに武家社会からあぶれていた6人の浪人は、両極から受容されないまま沈黙するほかありません。
 つたない言葉を振り絞っての、全身全霊をかけた菊千代の咆哮が心を打ちます。


 勘兵衛 「おのれの事ばかり考える奴は、おのれをも滅ぼす奴だ!」
 前半部のラスト、自分勝手な百姓たちに業を煮やした勘兵衛(志村)が、やおら刀を抜いて一喝するシーン。いくさをナメてはいけない。それまで温厚だった彼が初めて見せる怒気の迫力に圧倒されます (後ろで神妙に聞き入る勝四郎の配置も巧妙)。そのカッコ良さにほれぼれすると同時に、後半に向けて身が引き締まる思いです。


 菊千代 「こいつは、俺だ! 俺もこのとおりだったんだ!」
 焼け落ちる水車小屋の前で、親を殺された百姓の子供を抱きしめる菊千代。それまで自分は侍だと言い張っていた彼が、初めてはっきりと自分の出自を明かします。いつ観ても鼻の奥にこみ上げるものがある屈指の名場面。ここが一番好き。


 勝四郎 「あなたは素晴らしい人です。私は前からそれを言いたかった」
 単身敵陣に乗り込み、種子島銃を奪ってきた久蔵(宮口)。自分の才や功を誇ることなく、事もなげに任務を果たすその姿に、若い勝四郎(木村)が尊敬のまなざしで告げるシーン。うんうん、勝四郎ならずともクールで腕の立つ久蔵にはあこがれるというもの。
 なお脚本上の収穫のシーンでは、久蔵はうまく鎌を使えず、橋向こうの茂助に邪魔者扱いされるということになっていました。結局カットされましたが、「首をひねって鎌を眺める」 久蔵の顔を想像すると笑えます。孤高の大剣豪の意外な弱点でした。


 菊千代 「1本の刀じゃ、5人と斬れん!」
 最終決戦を前に、ありったけの刀を用意する菊千代。ご自慢の長刀も品質・管理がまずかったのか、あっという間に折れてしまいました。後の江戸期には 「武士の魂」 と崇められる日本刀も、生きるか死ぬかの実戦ではもろくあっけないもの。百姓あがりの菊千代はそのへん正直です。聞いてた七郎次(加藤)も 「その通り」 とばかりニコリ。
 三船さんのモノマネをするときは、なぜかこのセリフが思い浮かびます。


 勘兵衛 「勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない」
 『七人の侍』 の中でもっとも有名なラストの名ゼリフ。
 よく、百姓の 「生への執着」 の勝利と解釈されていますが、むしろ益のない戦いに首を突っ込んだ侍たちの 「死の美学」 の敗北と感じました。そしてそれは太平洋戦争ですべてを失った日本人の姿と重なり皮肉だ、と。
 ・・・が、そんな思想や歴史観うんぬんより、士族出身の黒澤はあくまでカッコイイ侍を描きたかったのだとか。労働者の地位向上に沸いた終戦直後の当時、脚本ではもっと 「百姓讃歌」 にする予定でしたが、黒澤はそれをカットしました。黒澤自身、若いころは人並みにプロレタリア運動にかぶれたりしましたが、結局深入りすることはなかった。このセリフも大衆受けして収まりのいい妥協点にすぎなかったようです。裏話を知って拍子抜けしました。


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 ・・・これだけの超大作、たまにある単館企画上映だけじゃさびしい。大劇場の全国ロードショーくらいでドカンと盛り上がりたいところです。
 音を直せば、熊だって山ァ下りるだ!

 
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