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【この本!】 2009.02.09 (Mon)

『火の鳥・手塚編』が見たい。

 
 2009年2月9日は、手塚治虫の没後20年。 昨'08年11月3日は生誕80周年でもありました。
 ぼくは 「アトムの誕生日」 2003年4月7日ごろ、話題に乗っかって手にしたら思いっきりハマってしまい、ついには手塚全集(ほぼ)コンプリートに至るほどの手塚信者になってしまった者です。

 その手塚マンガというと、「正義と平和をうたった よい子のための名作」 というイメージが一般的ですが、ぼくはそういう見かたがキライです。
 ドストエフスキーやゲーテで育ち、理不尽な戦争の時代を経験した手塚が描きたかったのは、むしろ人間の醜さ、「悪」ではなかったか。

 「アトムは完全ではないぜ。なぜならわるい心をもたねえからな」 (『鉄腕アトム』)
 「ぼくはアトムがきらいなんです」「アトムはいい子になりすぎた」 (手塚)


 後期の名作 『ブラック・ジャック (1973-)』 も、そんな 「悪」 「アンチ・ヒーロー」 を描いた代表的な作品。
 無免許医のブラック・ジャックは、患者に法外な治療費を吹っかけます。強欲な金持ちからせしめるだけならよくある義賊ものですが、善良な小市民からもしっかりふんだくるところが出色。(第89話『おばあちゃん』、第148話『落としもの』…)
 もともとは1970年代、「アンチ・ヒーロー」 を好む世相にのっとった設定でしたが、それでも手塚の哲学はきびしく、甘えを許しません。

 「世の中カネではない」 「生きることに金持ちも貧乏もない」 そして 「命は金に換えられない」
 …なんてことなら誰でも言える。では弱者も貧者もそれを実践できるか。ただでさえ苦しい人生、さらに重荷を負ってまで生きようと決意する勇気があるか。
 黒こげの死体の山を走り抜けた大阪大空襲、あわや右腕を失いかけた少年期の病・・・。この 「生きてるだけでもありがたい」 世代からの問いかけは痛烈です。


 何より 『ブラック・ジャック』 直前の手塚は、手塚的未来とファンタジーを否定した 「劇画」 ブームに押されて人気が急降下。経営する 「虫プロ」 は倒産。少年誌の連載ゼロ。
 自分を追い抜いていく若い作家に露骨な嫉妬心をぶつける一方、世間からは 「手塚はもう終わった人」 という、事実上の死刑宣告を下されます。

「オレは何でも描ける」 「もっとマンガ界の頂点にいたい!」

 そんな強烈な自我の持ち主が味わう、自己嫌悪と否定の日々・・・。自分を追い詰めた 「劇画」 にまで手を染め、作風は暗く殺伐なものへと沈降していきます。
 いよいよ居場所を失った名ばかりの巨匠。
 そこで最後の、ほんとうに最期の一矢として放たれたのが、 みずからの分身である医師を描いたこの 『ブラック・ジャック』 でした。
 果たして作品は大ヒット。

 ・・・まさに起死回生、なんとドラマチックな復活劇か! ぼくが作品以上に手塚先生に心酔してしまったのは、そんな煩悩の塊と化した人間手塚の、のた打ち回りながら這いあがった生き様にあります。
 リアル猿田彦。 『火の鳥・手塚編』 があれば読んでみたい!


 晩年の手塚は、事あるごとに 「早くぼくを越えるマンガ家が出てほしい」 「読者はぼくのマンガを批判してほしい」 と言い続けました。
 (この時ようやく!)「マンガの神様」 と呼ばれながら、最後まで自分を冷静に見つめ、必要なら否定することを忘れなかった。ブラック・ジャックが叫ぶ 「正義」 や 「希望」 は、手塚自身、自己の暗部との格闘の末にはじめて、たどりついたものだったからです。

 ひるがえって今、日テレ版アニメのようなファミリー向けの 「お涙頂戴」 は甘ったれすぎるし、いたずらに斜に構えた 「アンチ・ヒーロー」 一色でも敬遠される…。『ブラックジャック』 (というより手塚作品全般) の映像化に失敗作が多いのは、天才手塚のそのへんのさじ加減を再現できない作り手の非力にあると言えます。
 ただ 「知名度があるから」「マンガだから」と簡単に飛びつこうものなら大やけどしてしまうのが、戦後半世紀近くにもわたって 「マンガ史上唯一のメジャー (本人談)」 を自負してきた手塚治虫大先生の恐ろしいところなのです。

 
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23:52  |  この本!  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

*Comment

■Re: 『火の鳥・手塚編』が見たい。

実は子どもの頃、虫プロ、手塚さんの家の近くに住んでいました。
倒産した時も。。あの広大な芝生の手塚邸がもぬけの殻になって、、
その理由も良く分からなくて。。懐かしく寂しい思い出です。
映像といえば「悟空の大冒険」あれは面白かったです!!
まあ虫プロですからね(笑
moon |  2019.02.08(金) 21:52 |  URL |  【コメント編集】

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