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【めざせ東大 !?】 2018.01.12 (Fri)

タカラヅカと阪急モダニズム伝説

小林一三『逸翁自叙伝』


 阪急電鉄や宝塚歌劇を創業した小林一三の伝記を読みました。(小林一三『逸翁自叙伝』、伊井春樹『小林一三は宝塚少女歌劇にどのような夢を託したのか』など)
 当時田んぼしかなかった大阪郊外に鉄道を敷いて、モダンな住宅街や娯楽・文化施設をプロデュース。日本初の「田園都市文化」をつくりあげた大実業家。
 開発の過程で次々と持ちあがる問題の数々。それを逆手に取って飛躍のバネとした「逆転の発想」伝説にワクワクさせられました。

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 ――20世紀初め、日露戦争後に進んだ工業化・都市化の時代。「煤煙と俗塵」の都市部を離れて、大阪郊外に鉄道を敷こうという事業計画に小林は参加する。1910年、阪急電鉄の前身 「箕面有馬電気軌道」 社。
 はじめはその名のとおり、箕面(みのお)と有馬温泉という2大観光地への開通が目的だった。ところが六甲山系の工事難航や日帰り客の増加を恐れた有馬の宿々の反対などで、計画は途中の宝塚までで止まってしまう。

 当時の宝塚は地域の温泉街として賑わってはいたものの、鉄道の終着駅を背負って立つには頼りない規模だった。そこで小林は、今でいうアミューズメント・テーマパークをプロデュースして新たな客層の開拓をもくろむ。目玉がなければつくればいい。のちの「宝塚ファミリーランド」として長く親しまれた新時代の温泉施設には、遊園地や動植物園、劇場、室内プールなどが設けられ、一躍人気の観光スポットになる。

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 もちろん、田んぼだらけと笑われていた沿線一帯も放ってはおかない。町がないならつくればいい。安い田んぼを買い占め、住宅地に造成して分譲。若い勤め人でも買えるよう、一般向けの「住宅ローン」を導入したのもこの時が日本初だった。
 モダンな文化と静かな自然が同居する街並は、新しもの好きな若い中産階級の心を見事にとらえる。かの手塚治虫の父祖もそう。手塚作品の自由でハイカラな世界観は、まぎれもなく進取の気風に富んだ両親と阪急沿線の街並がはぐくんだものであった。(ぼくが阪急文化に興味を持ったのも、手塚の人間形成史が入口でした。)

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 そして、鉄道開通の翌1911年にオープンしたアミューズメントパーク 「宝塚新温泉」。
 しかし日本初の(に近い)室内プールは、地下水をくみ上げただけだったので水が冷たくて不評(温泉が出なかった?)。そこで水を抜いた水槽を客席に、プールサイドを舞台にしつらえ、募集した少女たちに歌舞を演じさせることにする。失敗をも取りこむ逆転の一手が、「タカラヅカ」誕生の瞬間だったというわけだ。1914年初公演。
 (急きょプールを劇場につくりかえた、というのは有名な「発想の転換」伝説だが、実際はシーズンオフには劇場にするつもりで初めから設計していたのではないか。そうでないと「水が冷たい」のも分からないなんてお粗末な話だから。
 実際、少女たちは早い段階から集められ、訓練されていたそうだ。少女劇団は大好評で、プールはそのまま廃止になったことは事実。)


 少女たちの指導には著名な音楽・演劇人が招かれ、ゆくゆくは男子生徒も加えて日本初の本格オペラ歌劇場をつくる構想もあったそうだ。ただし阪急・小林にとってはあくまで集客のための娯楽事業であったため、さすがにこれは叶わなかった。その代わり、世界でも類を見ない女性だけによる歌劇団が生まれ、この一地方都市に人々を引きつけるキラーコンテンツとなっているのはご存知のとおり。

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 かくして、郊外に新しい住宅地と文化を形成する「田園都市」文化はその後、東京の田園調布など日本各地に広がっていく。

 あともうひとつ付け加えるなら、阪急宝塚線もう一方の起点である大阪・梅田駅には「阪急百貨店」が開業。黙っていても人が集まるターミナル駅に大型商業施設を置くという発想も、当時としては画期的なものだった。
 阪急宝塚線はそのふたつの起点で、そして途中の駅々で、それぞれ日本の新しい文化を切り拓いたのである。

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 ――以上が(阪急社員でもないのに)かいつまんでまとめた阪急創業史です。元からあるカネのなる木にただ乗っかるだけならつまらない。客がいなければつくればいい、文化がなければつくればいいという大胆な発想にこそ感心しきりでした。
 これがどこまで小林一三ひとりのアイディアによるのかは分かりません。個人をヒーロー視するのは簡単ですが、実際は多くの頭脳から絞り出されたビジョンの集約であっただろうし、それが近代ビジネスというもの。だとしても、「阪急モダニズム」という響きとそこから生み出された文化遺産は、今も大きな憧れをもって人々をひきつけているのは疑いないでしょう。

 
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