【この本!】 2017.03.09 (Thu)

最後の名探偵ポワロ~『カーテン』

クリスティー『カーテン』


 英ドラマ 『名探偵ポワロ』 シリーズの最終話、『カーテン』 を観ました。NHKで再放送。

 「ポワロ最後の事件」 と銘打たれた本作は、原作のアガサ・クリスティにとっても遺作になったが、亡くなる30年前に書かれながら長く出版を許さなかったがゆえの、いわくつきの「遺作」。(1975年刊、翌'76年クリスティ没。)


 “灰色の脳細胞” エルキュール・ポワロ、その鮮烈デビューの舞台となった「スタイルズ荘」で再会したポワロとヘイスティングス大尉――
 ホームズとワトソンに比肩する、軽妙なやりとりで親しまれてきた名コンビも今は昔。それぞれ身体に、家庭に問題を抱えるふたりの老いが痛々しい。 『ポワロ』ものの執筆にうんざりし、お世辞にも家庭に恵まれたとは言えなかったクリスティ自身による、残酷な皮肉なのだろうか。


 物語は、シェイクスピアが生んだ大悪役、『オテロ』のイアーゴーのような狡猾さで殺人が行われていく。
 それはまるで、戦争を始める人間のやり方にも似る。本作と2度の大戦を重ね合わせる指摘は、ハヤカワ文庫あとがきにもあるとおり。クリスティが本作を執筆したのも、まさに第二次大戦中の1943年だった。
 イアーゴーのセリフのひとつ 「嫉妬は緑色の目をした怪物」 も劇中で引用される。ポワロもまた緑色の瞳をしていたのだがそれはさておき・・・


 この幕引きはやっぱり受け入れられない。
 それでもポワロとヘイスティングス、ふたりの友情と絆は当の作者の仕打ちにもめげず、深くあたたかく強い。独り歩きを始めたキャラクターの、ひとつの完成形と言えるか。
 ホームズやルパンにはない、複雑に濁った余韻と感傷を残した。


 このあと、ずっと後回しにして避けてきた原作小説をはじめて読んだ。「助手ヘイスティングスの手記」 というおなじみの体裁は罪深いくらい、よりストレートに痛みが伝わってきた。余計な予備知識が耳に入る前に読んでおきたかった。この記事も、ネタばらしはしたくないので核心に触れなくてごめんなさい。

 とにもかくにも、ファンが求めるポワロ像を見事に体現してくれた主演のデヴィッド・スーシェさん、そしてこれもハマリ役、日本語吹き替えの故・熊倉一雄さん、25年間おつかれさまでした。

 
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タグ : アガサ・クリスティー 推理小説 エルキュール・ポワロ  テーマ : 推理小説  ジャンル : 小説・文学

20:58  |  この本!  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

*Comment

■Re: 最後の名探偵ポワロ~『カーテン』

はじめまして!
私もNHKのポワロをよく観ていました。確か「カーテン」も読んだと思うのですが、あまり記憶にないです。
この機会にぜひ読み直してみたいと思いました!「永遠のポワロ」だけにちょっと寂しい気分になりますが。。。

Rose |  2017.04.01(土) 02:12 |  URL |  【コメント編集】

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