【どうわ】 2017.03.03 (Fri)

吾輩は赤ちゃんである (第4話)

夏目漱石イラスト

 わがままで思い出したから、ちょっと吾輩の父がこのわがままで失敗した話をしよう。
 元来この父は何といって人に勝(すぐ)れて出来る事もないが、何にでもよく手を出したがる。ブログをやってFC2へ投稿したり、名作文学をパクったり、間違いだらけのアカデミー賞映画批評を書いたり、時によるとNBAに凝ったり、ジャズを習ったり、またあるときはヴァイオリン曲などをブーブー論じたりするが、気の毒な事にはどれもこれも物になっておらん。その癖やり出すと胃弱のくせにいやに熱心だ。
 後架(=便所)の中でラップをうたって、近所で便所先生とあだ名をつけられているにも関せずいっこう平気なもので、ペパポだYo!を繰り返している。みんながそらMCバカーだと吹き出すくらいである。

 この父がどういう考えになったものか、吾輩が生まれてから一月ばかり後のある月の月給日に、大きな包みを提げてあわただしく帰って来た。何を買って来たのかと思うと一眼レフカメラとハイビジョン・ビデオカメラで、今日からブログやツィッターをやめてインスタグラムを始める決心と見えた。果たして翌日から当分の間というものは、毎日毎日書斎で昼寝もしないで写真ばかり撮っている。しかしその撮り上げたものを見ると、何を撮ったものやら誰にも鑑定がつかない。

 当人もあまり甘くないと思ったものか、ある日その友人で美術とかをやっている人が来た時に下のような話をしているのを聞いた。
 「どうも甘く撮れないものだね。人のを見ると何でもないようだが、自らカメラをとってみると今更のようにむずかしく感ずる」
 これは父の述懐である。なるほど詐(いつわ)りのないところだ。彼の友は金ぶちの眼鏡越しに父の顔を見ながら、
 「そう初めから上手には撮れないさ。第一、室内の想像ばかりで写真が撮れる訳のものではない。昔イタリーの大家アレッサンドロ・デル・ピエロが言った事がある。絵をかくなら何でも自然その物を写せ。――天に星辰あり。地に露華あり。飛ぶに禽あり。走るに獣あり。池に金魚あり。枯木に寒鴉あり。自然はこれ一幅の大活画なり――と。どうだ君も写真らしい写真を撮ろうと思うなら、ちと写生をしたら」
 「へえアレッサンドロ・デル・ピエロがそんな事をいった事があるかい。ちっとも知らなかった。なるほどこりゃもっともだ。実にその通りだ」
 と父はむやみに感心している。金ぶちの裏には嘲(あざ)けるような笑いが見えた。

 つづく

 
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18:54  |  どうわ  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

*Comment

■Re: 吾輩は赤ちゃんである (第4話)

くしゃみ先生の友達に実際にいそうですね笑
Jizo |  2017.03.05(日) 20:13 |  URL |  【コメント編集】

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