【どうわ】 2017.02.09 (Thu)

吾輩は赤ちゃんである (第3話)

夏目漱石生誕150年記念日――
夏目漱石イラスト
 

 (ハイライト) 吾輩がこの家へ住み込んだ当時は、母以外のものにははなはだ不人望であった。どこへ行っても3人目は跳ねつけられて相手にしてくれ手がなかった。いかに珍重されなかったかは、今日に至るまで姉の名前がついたお下がりを着ているのでも分る――。



 吾輩は大人と同居して彼等を観察すればするほど、彼等は我儘(わがまま)なものだと断言せざるを得ないようになった。
 ことに吾輩が時々同衾(どうきん=一緒に寝る)する兄姉のごときに至っては言語同断である。自分の勝手な時は人を逆さにしたり、頭へ紙おむつをかぶせたり、顔にシールを貼ったり、洗濯かごの中へ押し込んだりする。しかも吾輩の方で少しでも手出しをしようものなら、きょうだい総がかりでいじくり廻して迫害を加える。
 この間もちょっとプラレールで作ったお寿司定食を壊したら、姉が非常に怒ってそれから容易に座敷へ入れない。「ハローキティおままごとキッチン」の板の間で他人がふるえていてもいっこう平気なものである。

 吾輩の尊敬する筋向いのマンションの白くんなどは、逢うたびごとに大人ほど不人情なものはないと言っておらるる。
 玉のような白くんは先日生後4カ月を迎えたのである。ところがそこの家の親が裏の病院へ連れて行って、3本もの注射を打たせたそうだ。白くんは涙を流してその一部始終を話した上、どうしてもわれら赤ちゃんが親子の愛をまっとうして美しい家族的生活をするには、大人と戦ってこれを剿滅(そうめつ)せねばならぬと言われた。いちいちもっともの議論と思う。

 また隣りの保育園に通うみーちゃんなどは、兄姉ら上級生が所有権という事を解していないと言って大いに憤慨している。
 元来、1976年発効の 『子どもの権利条約』 第19条においては、「不当な取り扱いまたは搾取から子供を保護する」 旨が明記されておる。もし相手がこの規約を守らなければ司法に訴えてよいくらいのものだ。しかるに彼ら兄姉は毫(=わずか)もこの観念がないと見えて、我等が見つけたおもちゃは必ず彼等のために掠奪せらるるのである。彼等はその強力を頼んで、正当にわれらが食い得べきものを奪ってすましている。

 白くんは3世代大家族の家におり、みーちゃんは共働きの親を持っている。吾輩は自営業の家に住んでいるだけ、こんな事に関すると両君よりもむしろ楽天である。ただその日その日がどうにかこうにか送られればよい。
 いくら兄姉だって、そういつまでも栄える事もあるまい。まあ気を永く末っ子の時節を待つがよかろう。

 つづく

 
関連記事

タグ : 夏目漱石 パロディ  テーマ : 夏目漱石  ジャンル : 小説・文学

23:13  |  どうわ  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

*Comment

コメントを投稿する (ログイン不要)

URL  未記入でもOK
コメント
パスワード  編集・削除用。適当な文字を。
内緒  管理人だけに表示
 

▲PageTop