【どうわ】 2017.01.25 (Wed)

吾輩は赤ちゃんである (第2話)

夏目漱石イラスト
 

 (ハイライト) ようやくの思いで布団を這(は)い出すと向うに大きなおっぱいがある。吾輩は母の前に抱かれてどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという分別(=ちえ)も出ない。
 縁は不思議なもので、もしこのお乳がなかったなら、吾輩はついに路傍(ろぼう)に餓死したかも知れんのである・・・。



 さて自宅邸へは忍び込んだもののこれから先どうしてよいか分らない。そのうちに暗くなる、腹は減る、おむつの中は雨が降って来るという始末でもう一刻の猶予が出来なくなった。仕方がないからとにかく明るくて暖かそうな方へ方へとずって行く。
 今から考えるとその時はすでに敵の手の内に入っておったのだ。ここで吾輩はかの小学生の兄以外のきょうだいを再び見るべき機会に遭遇したのである。

 第一に逢ったのが幼稚園児の姉である。これは前の小学生の兄よりいっそう乱暴な方で、吾輩を見るや否やいきなり頸筋(くびすじ)をつかんで抱きついてきた。いやこれは駄目だと思ったから眼をねぶって運を天に任せていた。しかし苦しいのと暑いのにはどうしても我慢が出来ん。吾輩は再び姉の隙を見て布団を這(は)い上った。すると間もなくまた抱きつかれた。吾輩は抱きつかれては這い上り、這い上っては抱きつかれ、何でも同じ事を四五へん繰り返したのを記憶している。その時に姉という者はつくづくいやになった。このあいだ姉のアリエルのフィギュアをぬすんでこの返報(=しかえし)をしてやってから、やっと胸のつかえが下りた。

 吾輩が最後に抱きつかれたときに、この家の父が騒々しい何だといいながら出て来た。姉は吾輩をぶら下げて父の方へ向けて、この赤ちゃんの弟がいくらチュッチュしてもチュッチュしても可愛いという。父は鼻の下の黒い毛をひねりながら吾輩の顔をしばらく眺めておったが、やがて寝床に置いてやれといったまま奥へ入ってしまった。父はあまり口を聞かぬ人と見えた。姉は口惜しそうに吾輩をお昼寝布団へほうり出した。
 かくして吾輩は、ついにこの家を自分の住家ときめる事にしたのである。

 つづく


 
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