【アメリカ映画】 2016.08.29 (Mon)

dog day な 『狼たちの午後('75米)』


『狼たちの午後』

 銀行強盗に押し入った若い3人組。しかしお粗末な計画はすぐに破たんし、金も奪えず逃げられもせず、人質をとってただ立てこもるしかなくなってしまう――。
 シドニー・ルメット監督、アル・パチーノ主演による 『狼たちの午後 (Dog Day Afternoon)』。1975年アメリカ。



 「これは1972年8月22日、N.Y.ブルックリンで起こった実話である」
 


 汚ったないニューヨーク市街の素描にのせて、映画のopクレジット。'70年代どん底アメリカのナマの空気が伝わってくる。
 タバコの巨大看板も時代だなあ。電光時計は「2:57」の表示。

 「dog day」 とは 「暑い夏の日」 を意味するよく聞く熟語。8月はおおいぬ座シリウス(the Dog Star)が正面に見えることから。(ぼくは、犬のように舌をハァハァ出す暑さだから「dog day」だと思っていた。)
 邦題の「狼」はカッコつけすぎ。どうせなら 「野良犬たちの午後」 のほうがキャラクターにあってるのでは? (シリウスは漢字で「天狼星」と書くけども。)




 街の銀行に強盗に入ったソニー(アル・パチーノ)、サル(ジョン・カザール)、スティーヴィーの3人。しかし怖気づいたスティーヴィーがすぐに逃げ出すわ、金庫を開ければすでに空っぽだわと、出だしからつまづく。
 そうこうするうち、あっという間に警官隊に包囲されてしまった。思わずへたり込むソニーとサル。


 ソニー、包み箱からライフルを取り出していよいよ実行!・・・って時にバタバタ。このリアルな不器用っぷりは、ある意味で名場面。「ちゃんと計画したのか?」 と呆れる銀行員たちの気持ちも分かるというもの。

 終始わちゃわちゃしているパチーノと、無口で感情を表に出さないカザール。前年の 『ゴッドファーザー(1972、74)』 兄弟をそっくり入れ替えたようなキャラクターを演じているのがおもしろかった。




 ソニー、銀行の外に出て、警官隊を指揮するモレッティ刑事との直接交渉。カネが手に入らない以上、もはや要求は 「無事逃げられる」 こと。ハチの巣だけはごめんだ。
 銃を突きつける警官隊に「アッティカ!アッティカを忘れるな!」 のシュプレヒコール。野次馬たちの大喝采。

 
 本作最大の名場面、「アッティカ!」 のシュプレヒコール。
 これは実在する米アッティカ刑務所で起こった、看守による囚人への虐待・虐殺事件のこと(劇中でも簡単に説明される)。警察や公権力への不信が頂点に達した時代の叫び。
 パチーノのアドリブだそうで、ライヴ感あふれる熱気・迫力は満点。でも四面楚歌の中、賢いといえない実際の犯人が、民衆をアジるほど余裕あったのかな。

 刑事の手を振りほどき、「仲間を見捨てるわけにいかない」と行内に戻る主任のシルヴィア(ペネロペ・アレン)。かっこよくキメて歓声に応えるドヤ笑顔がちょっとニクたらしくていい。彼女、怪優ドナルド・サザーランドに似ている。




 ソニーの孤軍奮闘?は続く――

 人質の恋人が飛び出してきて殴られるわ、TVニュースのインタビューにも答えなくちゃいけないわ、ひっきりなしのいたずら電話はうるさいわで。「全員殺しちまえ」「女子行員とヤリまくってるのか?」・・・こいつらのほうがずっとアブない!)
 そして、裏口の包囲網に今さら気づいて大騒動。(初めてにして唯一の発砲。)


 いらぬ騒動に呆れる支店長(サリー・ボイヤー)に、ソニーの逆ギレ。「俺はあれもこれも大変なんだ!あんた代わりにやるか !?」 に笑った。お前が言うな。




 膠着した現場のぐだぐだ感はさらに深まっていく――

 宅配ピザの差し入れ。ソニー、野次馬たちの声援に応えて金をばらまいたものだからヤンヤの大喝采。(衆目の手前、さすがに警官たちはネコババしたりしない。)
 ピザ配達員、大役を果たした気取りで 「俺はスターだ!」

 銀行内では、人質の女子行員がソニーのライフルで遊んでいる始末。


 このあたりは、犯人と人質の間に奇妙な連帯感が生まれる 「ストックホルム症候群」 の典型とされる。女性行員たちののんきな軽口がかわいい (恐怖の裏返しではあるのだが)
 人質のシルヴィア、強盗はするのにタバコはガンになるから恐いと言うサルをあざけるような態度。両者の立場が逆転したような会話もあちこちで見られる。




 ソニーと同性愛関係のレオンが現場に呼ばれる。周囲の奇異と偏見に満ちた目。
 また、正妻アンジェラや母との会話が許されるが、自分ばかりベラベラしゃべる女たちにソニーはうんざり。


 後半部は、ソニーの人物背景が明らかに。ようやく同性愛問題が表に出だした時代で、当時はセンセーショナルだったのかもしれないが、今となってはやや退屈だった。 

 が、そもそもの強盗の動機は自分のためではなく恋人の性転換手術代だし、最初にぜんそく持ちの黒人警備員を逃がしてやるし(人種偏見も持っていない)、「サルを裏切ればお前だけは助けてやる」というFBIの揺さぶりにも乗らないし、あれほどウンザリしている妻や母を想って愛のある遺言状を書いている。
 また、人質たちの無礼にムカつきながらも、決して銃口を向けて脅したりしない。このへんソニーの「無私」と人のよさ (と言うより「お人よし」) に気づかされる。
 育ちかたを間違えてしまった、機会を逃してしまった人間の、後戻りのきかない痛恨を思った。

 なお、ゲイのレオンを演じたクリス・サランドンはアカデミー助演男優賞ノミネート。分からなくもないけど、本当なら相棒カザールが果たした演技・役割のほうがずっと候補にふさわしい。「俺はゲイじゃない、訂正させろ」 と本気で慌てる姿もおかしい。)





 そしてラストへ――。


 そしてラストへ。ネタバレになるので詳しくは書きません。
 ただ、解放された人質たちが後ろに目もくれず、喜びあいながら去っていく、当たり前といえば当たり前の現実が残酷だった。




 犯人も警察もマスコミも大衆も、だれもが解決の答えを見出せず、中途半端に右往左往する社会の停滞。 しかし本当に警察は無能なのか、マスコミは腐っているのか、大衆はバカなのか。
 誰が踊り、踊らされているのか。FBIのやり方ならいいのか――。

 子供のころ観た時は派手なドンパチがないので薄い印象でしたが、いやいやこの夏最後の 「dog day」 にぴったりな、ヒリヒリくる社会派劇。
 同'75年のアカデミー脚本賞を受賞したフランク・ピアソン、その細かな描写の積み重ねに拍手!な傑作快作でした。(前の記事、ニューシネマ黎明期の隠れ名作 『暴力脱獄('67)』 も執筆。)

 
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