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【この本!】 2014.04.26 (Sat)

シェイクスピアの女たち

 
 2014年4月26日は、ウィリアム・シェイクスピアの生誕450年だそうです。
 シェイクスピア作品の新訳を手がける松岡和子さんの 『深読みシェイクスピア (新潮選書)』 がおもしろい!

松岡和子『深読みシェイクスピア』

 『ロミオとジュリエット』 での、「 you」「 thou」 の使い分け。
 「 thou」「お前」 「あんた」 「貴公」。 丁寧語の 「 you=あなた」 よりもくだけて親しみのある、下から上には使わない古語。

 ロミオのことを、最初は丁寧語の 「You=あなた」 と呼んでいたジュリエットが、口づけを交わして付き合いはじめると 「thou」 に変わるという指摘。ぼくも初めて気付いて目からウロコ!だった。

 男の翻訳者は、「おぉ、ロミオさま」 なんてジュリエットに清楚なお嬢様像を求めてしまいがちですが、オトナの色恋に憧れ、中学生で駆け落ちするジュリエットの実像が見えてくる。
 結婚を 「考えてくださるなら」 なんて受け身ではなく、結婚 「するなら」 って同等の立場で一緒に考えるのが正しいんですね。そこまで踏み込んだシェイクスピアとその社会の、なんと開けたことか。

松岡訳『ロミオとジュリエット』

 『夏の夜の夢』 のダメ女ヘレナ。
 もうひとりのヒロイン、「モテ女」 ハーミアとのやり取りがふたりの立場・性格をズバリ。

  ハーミア 「嫌えば嫌うほど、追いかけられるの」
  ヘレナ 「愛せば愛するほど、嫌われるの」


 ヘレナちゃん、恋人に捨てられているのに 「ぶってちょうだい、飼い犬にしてちょうだい」 なんて喜んでいるからダメなんだよ。

 松岡さんの本で取り上げられたのは、1幕第1場の最後をしめくくる、ヘレナの長ゼリフ。
 ――恋人ディミートリアスに、ハーミアを追いかけさせてやろう。私には高くつくけど、そうやって彼を見ていられるだけで幸せ――
 ――それが 「 enrich my pain = わたしの傷を豊かにする」 という部分。

 松岡さんは、この「 蹴って、ぶって」なM女ヘレナを強調して、「・・・あの人の姿を見て、自分の傷に塩をすりこんでやろう 」 と訳し直されたようですが(舞台版)、そこまで行くとどうだろ、Mとかいう以前に人間としてヤバイ。

 「enrich my pain」=「わたしの傷はかさぶたにはならない」・・・いや、「わたしは傷をなめていられる」 くらいでも伝わるんじゃないかな。自分の不幸に酔うばかりで何の解決にもなっていないヘレナの屈折が表れていませんか?

 ・・・ぼくは20世紀までは、男たちに振り回されるヘレナが可哀想すぎると思ってたけど、「喪女」 「腐女子」 「こじらせ女子」 が立派に?市民権を得た現代では、哀しくもおかしいダメ女の生態が実にリアルに映えて、これも目からウロコ!でした。ヘレナを見る目が変わった。
 いま、『夏の夜の夢』 を松岡訳で読みなおしているところです。

松岡訳『夏の夜の夢』
 
 ほか、自分の言葉を持たず、親の言うなりをなぞって生きてきた(『ハムレット』の)オフィーリア、その言葉づかいのメカニズム。ぼく自身、お人形さんのような彼女を好きになれなかったその背景がなるほど判明し、これも得心がいった。


 シェイクスピアの翻訳は、生の息づかいが伝わる言葉の面白さ、実際にお芝居・読書として楽しむなら定番の小田島雄志版なんだけど、松岡和子さんの訳はひとつひとつの英語にとても丁寧に寄り添っていて、本当に発見がある。勉強になる。

 でも 『ロミジュリ』 は、(松岡さんもびっくりしてらした、)ジュリエットが 「わし」 「お前」 と言ってる古い坪内逍遥の訳に再発見がありそう。松岡監修の歌舞伎バージョンかなんかでやってくれないかな?

 (――ところで、道化のボトムを演じる松岡さんの学生時代の写真、イモトみたいで可愛かったですよ。)

 
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