【ヒッチコック米時代】 2012.06.16 (Sat)
『海外特派員 (1940米)』

≪感想≫
オランダ風車の怪や洋上の飛行機撃墜など、大掛かりな冒険の連続はもちろんですが、ひょうひょうとしたヴァン・メアや先祖が首を切られた「ff」フォリオット記者、カーチェイスのせいで道を渡れない老人など、合間合間のユーモアも乗っていて本当に飽きさせない。
どこまでも明るく軽快・痛快な娯楽作、これが日米開戦前夜のきな臭い時局に作られたとはあらためて驚かされた。 しかも同時に、格調高い 『レベッカ』 も作ってしまうヒッチの懐の深さ。 最高のハリウッド・デビュー。
英ウェストミンスター大聖堂での殺し屋おやじ (おなじみエドマンド・グゥエン) のカメラ目線に思わずドキッ。 『裏窓』 のソーウォール氏、『知りすぎていた男』 の教会のおばちゃんと並ぶ、ヒッチの 「三大カメラ目線」 だ。
A・ヒッチコック監督第25作 『海外特派員 (1940米)』
出演/ジョエル・マックリー (ジョニー・ジョーンズ)
ラレイン・デイ (キャロル・フィッシャー)
ジョージ・サンダース (フォリオット記者)
ハーバート・マーシャル (キャロルの父フィッシャー)
アルバート・バッサーマン (ヴァン・メア)
≪あらすじ≫
第二次大戦前夜。アメリカの新聞記者ジョニーは、海外特派員として緊迫するヨーロッパに飛ぶ。彼は開戦のカギを握る政治家ヴァン・メアを取材するが、メアは公衆の面前で暗殺されてしまう。ヴァン・メアが残した秘密条約をめぐって、ジョニーと悪の組織との対決が繰り広げられる。
≪解説≫
渡米第1作の 『レベッカ』 と並行して作られた娯楽冒険サスペンス (アカデミー作品賞にWノミネート。『レベッカ』 が受賞)。 大がかりなスペクタクル活劇の中、傘の花が乱舞する暗殺シーンが秀逸。
時代は日米開戦前夜、刻々と変化する現実の世界情勢を追うように製作。「戦火のイギリスを見捨てた」 という負い目のあるヒッチにとって、戦意高揚をあおる作品づくりは祖国への罪滅ぼしの意味もあった。(ラストの主人公の演説は、たまたま立ち寄ったジョン・フォード監督 --ヒッチと同じアイルランド系の縁-- が演技指導したのだとか。)
ヒッチたっての依頼で巨大セット群をプロデュースしたのは、ウィリアム・キャメロン=メンジーズという名匠。美術装置部門に総合プロデュースの概念を確立した人で、前'39年の『風と共に去りぬ』でアカデミー美術賞を受けているほか、ヒッチの 『白い恐怖('45)』では有名な悪夢のシーンの演出(失敗作だと思った本人の希望でノンクレジット)もしている。
≪「マクガフィン」について≫
物語のカギは“秘密条約”であるが、最後までこの条約の実体は明らかにされない。ヒッチはこれらカギとなる設定を 「マクガフィン」 と呼んでいるが、本作に限らず余計な意味づけは一切なされていない (後の 『北北西…』 でのマイクロ・フィルムが好例)。
つまり秘密文書の内容が何であろうが、悪の組織がどういう人たちで構成されていようが、どうでもいいことなのだ。むやみに 「マクガフィン」 に意味づけして観客を煩わすより、単純な設定のもとで主人公の波乱万丈の冒険を描くことこそ、ストーリーテラーとしての身上だとしている。
反面、「娯楽映画の職人監督」 として芸術面では長く軽視される原因にもなった。
≪ヒッチはここだ!≫
13分、主人公が振り返った瞬間にすれ違う、新聞を読んでいる男。
『FOREIGN CORRESPONDENT』
監督/アルフレッド・ヒッチコック
脚本/チャールズ・ベネット、ジョーン・ハリソン
撮影/ルドルフ・マテ
音楽/アルフレッド・ニューマン
美術/アレクサンダー・ゴリツェン、ウィリアム・キャメロン・メンジーズ(総監督)
製作/ウォルター・ウェンジャー
ウェンジャー・プロ=ユナイト 120分
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