【日本映画】 2012.05.12 (Sat)
小津とおならと 『お早よう』 と

小津安二郎監督の映画 『お早よう』。1959年松竹。
郊外の建て売り住宅地を舞台に、そこに住まう人々の近所づきあいと子供たちの日常を描く、ほのぼのコメディ。
「小津の食わず嫌い」 だったぼくは今回初めて観たのですが、こまかい描写ひとつひとつがププッとおかしくて、やっぱり小津って偉かったんだなあ、と感心させられました。
≪おなら≫
いま子供たちに流行している、自由自在のおなら芸。 わざわざ軽石を砕いて飲んで、日々おなら技を磨きあっているんだそうだ。
中にはおならに失敗して、別の「モノ」が出てしまう少年も! 「お母さん、パンツ出してくれよぅ~」 がせつない。
しかし大人はもっとすごい。
”ブー”
「あんた呼んだ?」 「いいや」 「あ、そう」
”ブー”
「なあに?」 「ああ、こんど亀戸の・・・」
・・・奥さんとオナラで会話ができる名人の域。なにせガス会社に務めているというのだから、もうかなわない。
≪家庭とご近所づきあい≫
うわさと思い込みで人を決めつける奥さん連中や、理屈も説かずに子供を押さえつける父親。 こういう昭和のコミュニティーは息苦しくていやだった。
事実、それに我慢できない劇中の若いカップルは、早々にこの住宅地を離れていく。このごろ昭和という時代が美化されて久しいが、小津映画はそんな昭和的な価値観が疎まれ、すたれ始める時代にこそ生まれた。
ただ当時は、「ご近所」 も 「家庭」 の延長だったのかな。だからお互いノック無しで上がり込んだり、適度に折り合いをつけて水に流す。
「お婆ちゃん、あんたもう"楢山"だよッ!」 なんて物騒なセリフ、今となっては家族でも言えません。
≪「お早よう」「いいお天気ですね」≫
口答えをして叱られたお兄ちゃんが、「"お早よう" ”今日もいい天気ですね” ”そうですね” ・・・大人だって余計な事ばかり言ってるじゃないか!」 と食い下がる。
結局そういう意味のない無駄話が、世の中の潤滑油になっている・・・という話なのですが、そう言って諭した子供たちの先生、当のご本人がその効能をラストで実践してくれます。
モジモジしながら、「お早よう」「いいお天気ですね」「そうですね」
・・・恋のはじまりです。
≪そして「おなら」へ≫
テレビ欲しさに 「だんまりスト」 を始める兄弟。「あいらぶゆー」 の幼い次男坊が最高にかわいい!
ラスト、兄弟がしょんぼり帰宅。哀しげなBGM。しかしカメラのカットが変わると・・・! こういうさりげない見せ方にほんと参りました。見ていて思わず 「わぁ!」 と声をあげてしまった。
・・・そして大団円、いつもの朝のおなら比べ。 晴れやかな青空の下、物干し台になびく堂々パンツ3枚!
すばらしいオチに拍手!
監督/小津安二郎
脚本/野田高梧、小津安二郎
撮影/厚田雄春 (小津作品の「アグファ・カラー」、買っとくれよぅ。)
音楽/黛敏郎
出演/笠智衆、三宅邦子
設楽幸嗣、島津雅彦 (MVPの兄弟。あいらぶゆー!)
佐田啓二、久我美子 (若い恋人たち。ラストの会話がいいんだ。)
杉村春子 (憎まれ口もほんッと上手いんだから。)
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