【ヒッチコック米時代】 2012.05.02 (Wed)
『疑惑の影 (1943米)』

≪感想≫
前半はひたすら明るく平穏な住宅街の描写。 おませな末娘やミステリーおたく青年の物騒な会話が、凡々平和な生活のいいスパイスになっていて楽しい。 そこへ忍び寄る本物の ! 黒い影。・・・うす汚れた路地裏、汽車の黒煙、世の金持ち未亡人への罵り、相席をいやがり始める幼い妹弟・・・、あこがれの叔父への疑惑が少しずつ積み重ねられていく。
そんな、ふたりのチャーリーの心理の戦いがみごと。 「双子のようなテレパシーで結ばれた」 叔父の醜い素顔を合わせ鏡にすることで、少女は不安の青春期を乗り越えていく。・・・と同時に、「それでもまだ叔父を愛している (ヒッチ評)」 という深い傷も刻まれるのだ。
はじめは冒険のない地味な作品だと思っていたが、見直すたびに魅力が分かってきた。
とくに80分過ぎごろ、「レース・カーテン」 にいたる一連の演出が最高に素晴らしい!
・・・「メリーウィドウ事件」 の容疑者逮捕というニュースを聞いたチャーリー叔父の喜びよう。 階段を一足飛びで駆け上がる・・・が、我に返って振り返ると・・・姪チャーリーは、遠く玄関の外で立ちつくしたまま。暗い影に覆われた冷たい視線。そう、彼女は 「これにて一件落着」 などと決して信じていないのだ!
・・・そして不穏な斜めカメラから 「レース・カーテン」 のカットへ。 叔父はそのしぐさで、ついに最後の決断を下す・・・。
しびれた。
A・ヒッチコック監督第29作 『疑惑の影 (1943米)』
出演/ジョセフ・コットン (チャーリー・オークリー)
テレサ・ライト (チャーリー・ニュートン)
マクドナルド・ケリー (ジャック・グレアム刑事)
パトリシア・コリンジ (母エマ)
ヘンリー・トラヴァース (父ジョセフ)
≪あらすじ≫
静かな住宅街サンタローザ。チャーリーおじさんの来訪に、同名の姪チャーリーは大喜び。しかし大好きなおじさんが、世を騒がす未亡人殺しの犯人ではないかと疑い始める。日に日によそよそしくなる姪の態度・・・。それに気づいたチャーリー叔父もまた、ある決断を下すのだった。
≪解説≫
イギリス人のヒッチが、高名な劇作家T・ワイルダーの助力を得て、等身大のアメリカ市民社会をいきいきと描く。ワイルダーは兵役のため最初期だけの脚本参加だったが、ヒッチはその世界観づくりの功に最大級の謝辞を贈った (オープニング)。
善玉イメージのあるJ・コットンが悪役に挑戦、平穏な日常社会にひそむ黒い影を印象づけている。レース・カーテンの窓辺にたたずむ場面の不気味さよ!
対するT・ライトは、W・ワイラー監督 『ミニヴァー夫人('42)』 『我等の生涯の最良の年 ('46)』 などで知られる実力派の娘役。はつらつとした可憐さで、終戦直後の日本でもアイドル的人気を博した。
≪裏話≫
ヒッチは撮影直前の'42年、戦下のイギリスに残した母エマを亡くしている。(父ウィリアムは '14年、ヒッチ15歳のときに死去。)
戦争の混乱とタイトな契約に忙殺され、帰郷もままならなかったヒッチ。親の死に目に会えない罪悪感があったのだろう、作中で語られる登場人物たちの逸話や性格設定には、ヒッチ自身の思いが色濃く投影されている。(年が離れた甘えん坊の末っ子、トラウマによる性格の急変、古き良き父母の時代など・・・。そして、母役「エマ」は実母と同名で、父役「ジョセフ」はヒッチ自身のミドルネーム。)
≪ヒッチはここだ!≫
17分、列車の中でカードに興じる後ろ姿。持ち札がすごい手! (医師「君も顔色が悪いぞ」)
『SHADOW OF DOUBT』
監督/アルフレッド・ヒッチコック
製作/ジャック・H・スカーボール
脚本/ソートン・ワイルダー
アルマ・レヴィル、サリー・ベンソン
原作/ゴードン・マクダニエル
撮影/ジョセフ・ヴァレンタイン
音楽/ディミトリ・ティオムキン
ユニヴァーサル 108分
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