【ヒッチコック米時代】 2012.03.02 (Fri)
『ロープ (1948米)』

≪感想 (ラストに言及あり)≫
ノーカット撮影のように見せるのは、ドラマ演出の上ではむしろマイナス。映像に起伏やハイライトがないし、つなぎ目ばかりが気になってしまう。 ただそんなヒッチのあくなき実験精神が、映画史上でも特筆すべき個性と売りになった。 そういうことでいいと思う。 実際にやってみたことがえらい。
開きそうで開かないチェストの蓋のスリル。 ただし最後まで一度も開けないでほしかった! 開けて死体を見てしまったことで、J・スチュワートの謎解きが説教じみてしまったのが惜しまれる。彼が静かに手を置くラストも、よりいっそう映えていたと思う。
一方、J・ドールのふてぶてしい冷血漢ぶりは出色。 ヒッチ作品はこの1本だけなのがもったいない。
A・ヒッチコック監督第34作 『ロープ (1948米)』
出演/ジェームズ・スチュワート (カデル教授)
ジョン・ドール (ブランンドン)
ファーリー・グレンジャー (フィリップ)
ジョアン・チャンドラー (デヴィッドの恋人ジャネット)
≪あらすじ≫
「優れた者は殺人の特権も許される」という妄想のもと、インテリ青年ブランドンとフィリップは、友人デヴィッドをロープで絞殺する。ふたりはさらにスリルを求め、死体を隠した部屋でパーティを催すのだが・・・。
≪解説≫
全編ノーカットで撮影されたかのような切れ目のない映像。事件の発端から解決まで、80分余の経緯をそっくり上映時間の中に収めた実験的作品。 ドラマとしては必ずしも成功しているとは言えないものの、その実験精神を讃えてヒッチコック第一の傑作に挙げる人も多い。
実際は(フィルム1巻ぶんの)約10分ごとに、人物の背中や静物でカット編集している。 カメラの動きに合わせて壁や家具をどかしたり戻したりと、現場はとにかく大変だったそうだ。 (無粋ながら…)カットの位置は11分、19分、26分、32分、42分、49分、57分、66分、71分のところ。うちいくつかはノーカット風にせず、通常の画面切り替えになっている。
≪裏話≫
らつ腕プロデューサーのD・O・セルズニックから独立して、イギリス時代の友人バーンスタインとT.A.P社を設立。ヒッチ自身が本格的にプロデュースを担当。門出の一作を初のカラーで飾った。(・・・が、興行はイマイチだったうえ、次作 『山羊座のもとに』 の大失敗で早くも倒産。)
≪ヒッチはここだ!≫
①冒頭、女性と連れだって通りを歩いている。・・・とされているが確信は持てない。
②53分、客たちが帰るシーンで、窓の外で赤く点滅する広告ネオンがヒッチのシルエットになっている。商品名は 「Reduco」 という、以前 『救命艇 (’43)』 に出てきた架空のやせ薬。ヒッチが 「使用前、使用後」 のモデルとしてチョイ役出演したあの有名なネタだ。 芸が細かい! (注:スチール写真で確認。実際の劇中では分かりにくい。)
『ROPE』
監督・製作/アルフレッド・ヒッチコック
製作/シドニー・バーンスタイン
脚本/アーサー・ロレンツ
原作/パトリック・ハミルトン
撮影/ジョセフ・ヴァレンタイン
音楽/レオ・F・フォーブスタイン
トランスアトランティック・ピクチャーズ社 80分
【続き・・・】
主演のスチュワートは、戦前のアメリカ的楽観主義の好青年役から陰のある実力派へと脱皮を果たしたが、本作はやや説教がましかった。終戦~米ソ対立~赤狩りなど、不安定な時代の空気が反映されているのだろうか。
それでも、チェストに静かに手を置くラストは深い余韻にあふれており、気持ちよく見終わることができた。素晴らしい幕切れ。
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