FC2ブログ

【日本映画】 2019.05.25 (Sat)

天才監督・山中貞雄の『丹下左膳』

『丹下左膳余話・百萬両の壺』

 戦前の天才映画監督・山中貞雄(1909~1938)。戦争によって29歳の命を奪われたうえ、フィルムも散逸して現存する作品はわずか3作のみ。

 『丹下左膳余話・百萬両の壺』(1935)
 『河内山宗俊』(1936)
 『人情紙風船』(1937)


 それでもその3作いずれもが日本映画史上の傑作として現代でも親しまれている、恐るべき天才です――。


 『丹下左膳余話・百萬両の壺(1935日活)』
 大河内傳次郎の当たり役となったチャンバラ劇のニヒルなアウトロー「丹下左膳」を、ホームコメディにしてしまった奇想天外。
 (シリーズ3部作の堂々完結編をコメディにされて、原作者・林不忘はご立腹だったとか。前2作を大ヒットさせた監督・伊藤大輔が退社後の、誰もやりたがらなかった重すぎる後任。山中はならばと思いきり割りきって、自分色に染めあげたのだそう。)

 百万両のありかを記した壺をめぐる、左膳と柳生一門との争い・・・が物語としてありながら、おもしろいのは左膳とその女房・お藤の丁々発止の掛けあい。口を開けばケンカばかり、お互い嫌だ嫌だとさんざんゴネておいて、場面が変わると喜々として尽くしているこの笑いのセンスが抜群!
 山中はカメラをあまり動かさない代わりに、こういうカット編集だけで映画の躍動感、楽しさを与えてくれます。

 表向きはお藤の店の用心棒という左膳だが、平たく言えば女の「ヒモ」な生活。ライバルの柳生源三郎(演・沢村国太郎=長門裕之・津川雅彦兄弟の父)も、肩身の狭い婿養子をスネてる軽薄なキャラに変更。
 ほんとダメ男ばかり。だけど憎めない、これがまたおかしい!

 一方の女性陣は美女ぞろい。左膳の情婦「お藤」役の喜代三(きよぞう)さんは向こう気の強い姉御肌。メイクも現代的で、余計な飾り気がなくとも艶気あふれるこのカッコよさ! 芸者から流行歌手、そして本作での女優起用へ、という転身は当時画期的だったそうです。
 かたや店の娘役・深水藤子さんという方の、なんと可愛らしいこと! 山中監督とは恋仲だったそうで、源三郎がふらり見初めるシーンなど、特別な愛情をもって美しく撮ってもらっているのが分かります。(下の動画のサムネイル画像)


 ――世界恐慌に始まる不穏・不透明な時代に生まれた、異形異色のアンチヒーロー『丹下左膳』。先立つ伊藤大輔監督版では主君に捨てられ怨みの中死んでいった左膳が、山中の才覚でたまらなく可笑しくたまらなく愛おしい 「逆・異色作」 となって、21世紀のわれわれをも楽しませてくれます。

 しかし軍に招集された山中は戦地で病死。その後の戦火や困窮により生き残ったフィルムもわずか3作とは「チト、サビシイ 」 (山中)。命も文化遺産も灰と消した狂乱の時代を恨まずにはいられません。
 
関連記事
20:24  |  日本映画  |  コメント(2)  |  EDIT  |  上へ↑