【画像一覧】 2016.08.31 (Wed)
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dog day な 『狼たちの午後('75米)』

どうわ『ひまわりのしっぽ』

ボッティチェッリ『ゴーヤの誕生?』 (世界名画絵にっき)

『タイタニック (1997米)』

乱歩の白昼夢

『ゴジラ』第1作だけあればいい
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【アメリカ映画】 2016.08.29 (Mon)
dog day な 『狼たちの午後('75米)』

銀行強盗に押し入った若い3人組。しかしお粗末な計画はすぐに破たんし、金も奪えず逃げられもせず、人質をとってただ立てこもるしかなくなってしまう――。
シドニー・ルメット監督、アル・パチーノ主演による 『狼たちの午後 (Dog Day Afternoon)』。1975年アメリカ。
「これは1972年8月22日、N.Y.ブルックリンで起こった実話である」
汚ったないニューヨーク市街の素描にのせて、映画のopクレジット。'70年代どん底アメリカのナマの空気が伝わってくる。
タバコの巨大看板も時代だなあ。電光時計は「2:57」の表示。
「dog day」 とは 「暑い夏の日」 を意味するよく聞く熟語。8月は朝、おおいぬ座シリウス(the Dog Star)が太陽と一緒に昇ってくることから。明るさ数割増しだから暑くなる、と昔の人は考えたそうだ。(ぼくは、犬のように舌をハァハァ出す暑さだから「dog day」だと思っていた。)
邦題の「狼」はカッコつけすぎ。どうせなら 「野良犬たちの午後」 のほうがキャラクターにあってるのでは? (シリウスは漢字で「天狼星」と書くけども。)
街の銀行に強盗に入ったソニー(アル・パチーノ)、サル(ジョン・カザール)、スティーヴィーの3人。しかし怖気づいたスティーヴィーがすぐに逃げ出すわ、金庫を開ければすでに空っぽだわと、出だしからつまづく。
そうこうするうち、あっという間に警官隊に包囲されてしまった。思わずへたり込むソニーとサル。
ソニー、包み箱からライフルを取り出していよいよ実行!・・・って時にバタバタ。このリアルな不器用っぷりは、ある意味で名場面。「ちゃんと計画したのか?」 と呆れる銀行員たちの気持ちも分かるというもの。
終始わちゃわちゃしているパチーノと、無口で感情を表に出さないカザール。前年の 『ゴッドファーザー(1972、74)』 兄弟をそっくり入れ替えたようなキャラクターを演じているのがおもしろかった。
ソニー、銀行の外に出て、警官隊を指揮するモレッティ刑事との直接交渉。カネが手に入らない以上、もはや要求は 「無事逃げられる」 こと。ハチの巣だけはごめんだ。
銃を突きつける警官隊に「アッティカ!アッティカを忘れるな!」 のシュプレヒコール。野次馬たちの大喝采。
本作最大の名場面、「アッティカ!」 のシュプレヒコール。
これは実在する米アッティカ刑務所で起こった、看守による囚人への虐待・虐殺事件のこと(劇中でも簡単に説明される)。警察や公権力への不信が頂点に達した時代の叫び。
パチーノのアドリブだそうで、ライヴ感あふれる熱気・迫力は満点。でも四面楚歌の中、賢いといえない実際の犯人が、民衆をアジるほど余裕あったのかな。
刑事の手を振りほどき、「仲間を見捨てるわけにいかない」と行内に戻る主任のシルヴィア(ペネロペ・アレン)。かっこよくキメて歓声に応えるドヤ笑顔がちょっとニクたらしくていい。彼女、怪優ドナルド・サザーランドに似ている。
ソニーの孤軍奮闘?は続く――
人質の恋人が飛び出してきて殴られるわ、TVニュースのインタビューにも答えなくちゃいけないわ、ひっきりなしのいたずら電話はうるさいわで。(「全員殺しちまえ」「女子行員とヤリまくってるのか?」・・・こいつらのほうがずっとアブない!)
そして、裏口の包囲網に今さら気づいて大騒動。(初めてにして唯一の発砲。)
いらぬ騒動に呆れる支店長(サリー・ボイヤー)に、ソニーの逆ギレ。「俺はあれもこれも大変なんだ!あんた代わりにやるか !?」 に笑った。お前が言うな。
膠着した現場のぐだぐだ感はさらに深まっていく――
宅配ピザの差し入れ。ソニー、野次馬たちの声援に応えて金をばらまいたものだからヤンヤの大喝采。(衆目の手前、さすがに警官たちはネコババしたりしない。)
ピザ配達員、大役を果たした気取りで 「俺はスターだ!」。
銀行内では、人質の女子行員がソニーのライフルで遊んでいる始末。
このあたりは、犯人と人質の間に奇妙な連帯感が生まれる 「ストックホルム症候群」 の典型とされる。女性行員たちののんきな軽口がかわいい (恐怖の裏返しではあるのだが)。
人質のシルヴィア、強盗はするのにタバコはガンになるから恐いと言うサルをあざけるような態度。両者の立場が逆転したような会話もあちこちで見られる。
ソニーと同性愛関係のレオンが現場に呼ばれる。周囲の奇異と偏見に満ちた目。
また、正妻アンジェラや母との会話が許されるが、自分ばかりベラベラしゃべる女たちにソニーはうんざり。
後半部は、ソニーの人物背景が明らかに。ようやく同性愛問題が表に出だした時代で、当時はセンセーショナルだったのかもしれないが、今となってはやや退屈だった。
が、そもそもの強盗の動機は自分のためではなく恋人の性転換手術代だし、最初にぜんそく持ちの黒人警備員を逃がしてやるし(人種偏見も持っていない)、「サルを裏切ればお前だけは助けてやる」というFBIの揺さぶりにも乗らないし、あれほどウンザリしている妻や母を想って愛のある遺言状を書いている。
また、人質たちの無礼にムカつきながらも、決して銃口を向けて脅したりしない。このへんソニーの「無私」と人のよさ (と言うより「お人よし」) に気づかされる。
育ちかたを間違えてしまった、機会を逃してしまった人間の、後戻りのきかない痛恨を思った。
なお、ゲイのレオンを演じたクリス・サランドンはアカデミー助演男優賞ノミネート。分からなくもないけど、本当なら相棒カザールが果たした演技・役割のほうがずっと候補にふさわしい。
そしてラストへ――。
そしてラストへ。ネタバレになるので詳しくは書きません。
ただ、解放された人質たちが後ろに目もくれず、喜びあいながら去っていく、当たり前といえば当たり前の現実が残酷だった。
犯人も警察もマスコミも大衆も、だれもが解決の答えを見出せず、中途半端に右往左往する社会の停滞。 しかし本当に警察は無能なのか、マスコミは腐っているのか、大衆はバカなのか。
誰が踊り、踊らされているのか。FBIのやり方ならいいのか――。
子供のころ観た時は派手なドンパチがないので薄い印象でしたが、いやいやこの夏最後の 「dog day」 にぴったりな、ヒリヒリくる社会派劇。
同'75年のアカデミー脚本賞を受賞したフランク・ピアソン、その細かな描写の積み重ねに拍手!な傑作快作でした。(前の記事、ニューシネマ黎明期の隠れ名作 『暴力脱獄('67)』 も執筆。)
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【 ゴーヤ絵にっき】 2016.08.20 (Sat)
ゴーヤの誕生 (世界名画絵にっき)

ボッティチェッリ 『ゴーヤの誕生』 (ヴィーナスの誕生)
ベランダのプランター栽培のゴーヤ、収穫本番です。
今年は失敗かなと思っていたけど、なんとか格好がつくくらいになりました。
大きくなるまで待ちすぎると他に栄養が回らなくなるので、早め早めの収穫。
(タテの長さが止まったら収穫の目安。)
果実は小ぶりだけど、味は市販のものよりガッシリ濃くておいしいです。
8月あたまの初収穫から、週に1~2個のペース。
自慢にはならないけど、目標の最低ラインにしている 「1株10個」 はまず叶うかな。
このまま9月も暑い日が続きますよう――。
ゴーヤ同様 「夏好き」 なので、今年いっぱい30℃超でもかまいません。
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【アカデミー賞全作品】 2016.08.15 (Mon)
『タイタニック (1997米)』

≪感想≫
申し訳ないけど、子供じみてて付き合っていられなかった。
大人の作り手なら、乗員なり移民なり楽士なりにもっと時間を割いて群像劇にしたいところだが、ふたりの愛だけで3時間押しまくった勇気は、ある意味ですごい。その勇気がメガ・ヒットの秘訣か。
一夜の恋に憧れる少女から昔の恋語りに酔うおばあちゃんまで、あらゆる世代の夢を取り込むキャメロン監督のメガ・ヒット作劇法にはまったく頭が下がります。男の子が「これでもか」とばかりのヒーローものに熱狂するように、「これでもか」なロマンスが女の子にはたまらないのだろう。それもまた映画のりっぱな役割だし、えらいとは思うけど・・・。
これだけ世界中をのぼせさせた「タイタニックまつり」、最大の功労者ディカプリオには、主演賞に名誉賞をそえて贈るべきだった。彼を評価しないのは不当だ。
オスカー度/★★★★
満足度/★☆☆
『タイタニック (1997米)』
監督/ジェームズ・キャメロン
主演/レオナルド・ディカプリオ (ジャック・ドーソン)
ケイト・ウィンスレット (ローズ・デウィッド・ブカター)
ビリー・ゼイン (ローズの婚約者キャル)
キャシー・ベイツ (モリー)
グロリア・スチュアート (現代のローズ)
≪あらすじ≫
1912年4月10日、英サウザンプトン港から米ニューヨークに向け、史上最大の豪華客船タイタニック号が出港する。
客のひとり、一等客室の富豪令嬢ローズは傲慢な婚約者との結婚を強いられ、人生に絶望していた。死を決意し、極寒の海に飛び込もうとしたところを三等客室の若い画家ジャックに助けられる。貧しくとも自分らしく生きるジャックに惹かれたローズは、みずからの手で人生を切り拓く勇気を得るのだが・・・。
≪解説≫
総製作費2億ドル、メジャー2社が組んだ史上空前の大スペクタクル・ロマンス。ほぼ原寸大のタイタニック号を用意し、歴史的悲劇の全貌を再現してみせた。
公開されるや世界中で大ブームを呼び、主演のディカプリオの人気は沸騰。史上最高の全米興行収入6億ドルを記録(2位『スター・ウォーズ』や3位『E.T.』は4億ドル台)。全世界でも18億ドルの快挙(2位『ハリー・ポッターと賢者の石』ほかは9億ドル台)。
≪受賞≫
アカデミー作品、監督、撮影、音楽、主題歌、美術、編集、音響、衣装、視覚効果、音響効果賞の計11部門受賞。
(他の作品賞候補 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』 『L.A.コンフィデンシャル』 『恋愛小説家』 『フル・モンティ』)
『ベン・ハー('59)』(および『ロード・オ・ザ・リング('03)』)と並ぶ史上最多11部門受賞。区切りの第70回式典に大きな花を添えた。
一方で、この年の世界の話題を独占したL・ディカプリオだったが、人気俳優へのやっかみだろう、ノミネートすらされなかった (王子様キャラが荒唐無稽すぎたところもあるが・・・)。
『TITANIC』
製作/ジェームス・キャメロン、ジョン・ランドー
監督/ジェームス・キャメロン
脚本/ジェームズ・キャメロン
撮影/ラッセル・カーペンター
音楽/ジェームス・ホーナー
主題歌/セリーヌ・ディオン 「My Heart Will Go On」 (※歌手はオスカーの対象外)
詞/ウィル・ジェニングス、曲/ジェームズ・ホーナー
美術/ピーター・ラモント、装置/マイケル・フォード
編集/コンラッド・バフ、ジェームス・キャメロン、リチャード・A・ハリス
音響/ゲイリー・リドストロム、トム・ジョンソン、ゲイリー・サマーズ、マーク・ユラノ
衣装/デボラ・L・スコット
視覚効果/トーマス・L・フィッシャー、ロブ・レガート、マーク・ラソフ、マイケル・カンファー
音響効果/トム・ベルフォード、クリストファー・ボイス
20世紀FOX、パラマウント/189分
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【この本!】 2016.08.10 (Wed)
乱歩の白昼夢

ぼくは、かげろう舞う炎天下に身を置かれると、決まって江戸川乱歩が読みたくなります。
乱歩といえば名探偵・明智小五郎と怪人二十面相が有名ですが、
ここはやはり初期の大人向け短編がおすすめ。
中でもこの季節にピッタリなのが、幻想ショートショートの 『白昼夢』。
蒸し暑い午後の大通り。店先で「おれは妻を殺した」とふれまわる薬屋。野次馬たちのからかいをよそに、語り手の“私”が店の奥をのぞくと・・・
とくべつ代表作というほどでもない、文庫本では10ページに満たない小品ですが、
ぼくは乱歩といえば この話を思い出します。
乱歩の怪奇ワールドは、ありがちな深夜の墓場より、むしろ炎天下の市中がよく似合う。
くらくらと麻痺していく日常の感覚。いつか来たことがあるような大都会の死角。
じっとりとにじむ汗のように、肌にまとわりついて逃れられない心理の迷宮・・・。
ぼくは 「乱歩生誕100年」 だった1994年を前後して、ほぼ全作読破しました。
彼と出会って以来、にぎやかな街の交差点での信号待ちが、ある意味で一番の恐怖を感じます。
これだけの衆目にさらされながら、乱歩はどんな恐怖を披露してくれるのだろう!?
『白昼夢』 は創元推理文庫 『D坂の殺人事件』 に収録。(上の写真)
併録の 『お勢登場』 『虫』 といった秀作短編も大好き。
このくそ暑い昼下がり、うっかり乱歩作品を手にとって、人間心理の闇に落ちていくのも一興ではないでしょうか。
ただし、予想以上にエロ&グロです。
かつて幼いぼくを悶々とさせ、震え上がらせた歴代の映像化作品が、可愛らしくすら思えます。
だから本音は、お勧めできません・・・。
この短編集 『D坂の殺人事件』 は、明智初登場の表題作など秀作ぞろい。
ほか、同じ創元推理文庫の 『江戸川乱歩集』 がお得。『人間椅子』 『屋根裏の散歩者』 『パノラマ島奇譚』 『陰獣』 など長短の代表作が3冊ぶん入って、2冊ぶんのお値段。どちらも 「はじめての乱歩」 にどうぞ。
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【日本映画】 2016.08.02 (Tue)
『ゴジラ』第1作だけあればいい

『ゴジラ』の最新作が公開ということで、伝説の第1作を久々に観ました。
1954年・東宝。壊滅的敗戦からわずか9年。同年の「第五福竜丸」事件も重なっての、作り手・演者の熱気や迫真にあらためて圧倒されました。
当時は東宝も円谷も、あきれるほどノンキに戦記ものや放射能ものを作っていたので、本作を純粋な 「反戦・反核」 映画でくくるのは早計だと思います。
が、身を焼かれ、踏み潰され、住む家を追われるエキストラの顔は、それを実際に味わった人たちの顔。(そんな愚かな時代を許した・支持した人たちでもある。)
そして、モノクロの夜にゆっくりと襲来するゴジラからは、着ぐるみ怪獣ショーで育った幼少の思い出を全否定されたような、本当に背筋が凍るような戦慄をおぼえました。
驚くほど静かに繰り広げられるクライマックスの対決も出色。ただの娯楽映画で終わらないゆえんがあります。
後年の子供だましな娯楽シリーズ化を嘆く声も多いですが、むしろそっち路線に転じてよかったのではないか。
戦争を知らない、学んでいない世代が、ゴジラ映画にどう新しい意義や視点を見出したのかは知りませんが、リアルな破壊と殺りくの描写はそう簡単にマネできるものではないし、再びマネできる時代が来ても困る。まして、外患をタテに軍隊が跋扈するなどもってのほかだ。
ラスト、志村喬演じる博士の名警句――
「あのゴジラが最後の一匹だとは思えない・・・。もし水爆実験が続けて行われるとしたら、
あのゴジラの同類が、また世界のどこかに現れてくるかもしれない・・・」
――破滅への火種はくすぶり続けたままですが、今のところ その後のゴジラが凡作に終わっているのは、現実の人類にとっては幸福だったのかもしれません。
『ゴジラ』
製作/田中友幸 (東宝黄金期のヒットメーカーであり、最初にゴジラ設定を思いついた発案者)
監督・脚本/本多猪四郎
脚本/村田武雄
特殊技術/円谷英二
音楽/伊福部昭
主演/宝田明、河内桃子、平田昭彦、志村喬
1954年、東宝
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