【この本!】 2017.08.29 (Tue)

恐怖!短歌で怪談!!

『怪談短歌入門』


『怪談短歌入門』 という本を読みました。雑誌の企画による、怖い短歌コンテストをまとめたもの。

東直子・佐藤弓生・石川美南著、メディアファクトリー刊、2013年。


大賞作 「あたまがころり」 のようなスプラッターあり、

「ママはきれいだ」 「貸出カード」 のようなサイコな怖ろしさもあり。

もちろん、知らない人や知らない世界に迷いこむ王道の怪談ものも。


読者が気軽に投稿した気軽な読み物ですが、

なるほど、「怪談」という縛りがありながら、かえって自由な歌が集まったという指摘が興味深かった。


ぼくは上の作品のほか、「オバQ」がよかった(第1回佳作)。

これは絵が怖いというより、本物のオバQを知ってるナミちゃんの怖さではないかな。

あと、「正しく」 刺し直す 「サボテンの針」 も不気味な怖さがありました。


各回の入選作はネットで公開されているので、(『ダ・ヴィンチニュース』サイト)

この夏最後の納涼がてら、「怪談短歌コンテスト」 で検索してみてはいかが。


↓下の 【続き…】 に、ほんのお耳汚しにぼくも2つ3つ作ってみました。R-18指定、悪趣味です。

霊的なものはピンとこないことが自分でも分かった。
 
21:10  |  この本!  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【この本!】 2017.03.09 (Thu)

最後の名探偵ポワロ~『カーテン』

クリスティー『カーテン』


 英ドラマ 『名探偵ポワロ』 シリーズの最終話、『カーテン』 を観ました。NHKで再放送。

 「ポワロ最後の事件」 と銘打たれた本作は、原作のアガサ・クリスティにとっても遺作になったが、亡くなる30年前に書かれながら長く出版を許さなかったがゆえの、いわくつきの「遺作」。(1975年刊、翌'76年クリスティ没。)


 “灰色の脳細胞” エルキュール・ポワロ、その鮮烈デビューの舞台となった「スタイルズ荘」で再会したポワロとヘイスティングス大尉――
 ホームズとワトソンに比肩する、軽妙なやりとりで親しまれてきた名コンビも今は昔。それぞれ身体に、家庭に問題を抱えるふたりの老いが痛々しい。 『ポワロ』ものの執筆にうんざりし、お世辞にも家庭に恵まれたとは言えなかったクリスティ自身による、残酷な皮肉なのだろうか。


 物語は、シェイクスピアが生んだ大悪役、『オテロ』のイアーゴーのような狡猾さで殺人が行われていく。
 それはまるで、戦争を始める人間のやり方にも似る。本作と2度の大戦を重ね合わせる指摘は、ハヤカワ文庫あとがきにもあるとおり。クリスティが本作を執筆したのも、まさに第二次大戦中の1943年だった。
 イアーゴーのセリフのひとつ 「嫉妬は緑色の目をした怪物」 も劇中で引用される。ポワロもまた緑色の瞳をしていたのだがそれはさておき・・・


 この幕引きはやっぱり受け入れられない。
 それでもポワロとヘイスティングス、ふたりの友情と絆は当の作者の仕打ちにもめげず、深くあたたかく強い。独り歩きを始めたキャラクターの、ひとつの完成形と言えるか。
 ホームズやルパンにはない、複雑に濁った余韻と感傷を残した。


 このあと、ずっと後回しにして避けてきた原作小説をはじめて読んだ。「助手ヘイスティングスの手記」 というおなじみの体裁は罪深いくらい、よりストレートに痛みが伝わってきた。余計な予備知識が耳に入る前に読んでおきたかった。この記事も、ネタばらしはしたくないので核心に触れなくてごめんなさい。

 とにもかくにも、ファンが求めるポワロ像を見事に体現してくれた主演のデヴィッド・スーシェさん、そしてこれもハマリ役、日本語吹き替えの故・熊倉一雄さん、25年間おつかれさまでした。

 
20:58  |  この本!  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【この本!】 2016.11.19 (Sat)

≪この本!≫書庫もくじ

  ≪文学≫書庫もくじ (クリックすると新しいページで開きます。)

  最後の名探偵ポワロ~『カーテン』

  ワインと月と漢詩と
  乱歩の白昼夢
  谷崎恐怖症 『春琴抄』 (没後50年)
  白居易~秋の漢詩をどうぞ
  シェイクスピアの女たち(生誕450年)

  ハイジ10のなぞ
  リチャード3世の骨
  はじめてのドストエフスキー
  いとしの新明解国語辞典
  陶淵明 『酒を止む』

  仮想・日本版『オリエント急行殺人事件』
  江戸川乱歩のエログロ・ベスト3!
  『砂の器』づくし
  『アルプスの少女ハイジ』 原作
  『源氏物語』 第2部がおもしろい

  『火の鳥・手塚編』が見たい!
  ミステリーの詩人ウールリッチ
  思春期のサロメ
  ボケっぱなしのカフカ
  ゲーテと『ロード・オブ・ザ・リング』

  I LOVE 李白
  李白 『将進酒』
  アガサ・クリスティにだまされて
  オー・ヘンリーのオチ
  少納言の清ちゃんスキスキ、すねないで

  我が青春の龍之介
  かこさとしの絵本
  ぜったい曹操派!
  ダンテと行く、GW地獄めぐりの旅
  手塚治虫全集~手塚後期を語らせて

 
19:30  |  この本!  |  EDIT  |  上へ↑

【この本!】 2016.11.18 (Fri)

ワインと月と漢詩と

『唐詩選』岩波文庫
(岩波文庫)

 今年もボジョレー・ヌーボー解禁だそうで。
 初物祭りの縁起モノ、さすがに飲む気はしませんが、別に何本か買ってきました。

 漢詩を肴に「復(ま)た一杯」。
 酒飲みを集めて長江をも飲み干さん。


  王翰 『涼州詞』

 葡萄美酒 夜光杯
 欲飲琵琶 馬上催
 酔臥沙場 君莫笑
 古来征戦 幾人回

 ぶどうの美酒と月夜に光る杯
 飲もうとしたら、馬上の仲間が琵琶を弾いてはやし立てる
 酔って砂漠に倒れても笑わないでくれよ
 古来より、戦に出て何人が生きて帰っただろう



 王翰は8世紀・唐の時代の人。かの玄宗皇帝と同年代だそうですが、老いた玄宗が楊貴妃に溺れて国を傾ける前に亡くなっているので、唐の黄金時代のうちに生きたといってもいいか。
 涼州は現在の甘粛省、西域シルクロードへの玄関口。こういう辺境の防衛に庶民が駆り出された事も(府兵制と節度使)、唐の国力が傾く大きな原因となりました。
 明日の命も知れない下じものやけくそ、やりきれなさが伝わります。


 先日まで「スーパームーン」が話題のようですが、ぼくはよく知らない。付き合いたくない。
 スーパームーン?? 日本には月を愛でるりっぱな文化があるというのに、ましな訳語はないのか。
 安売りされる月もかわいそうに。

 
19:57  |  この本!  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【この本!】 2016.08.10 (Wed)

乱歩の白昼夢

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夏ですね。暑いですね。

ぼくは、かげろう舞う炎天下に身を置かれると、決まって江戸川乱歩が読みたくなります。


乱歩といえば名探偵・明智小五郎と怪人二十面相が有名ですが、

ここはやはり初期の大人向け短編がおすすめ。

中でもこの季節にピッタリなのが、幻想ショートショートの 『白昼夢』


 蒸し暑い午後の大通り。店先で「おれは妻を殺した」とふれまわる薬屋。野次馬たちのからかいをよそに、語り手の“私”が店の奥をのぞくと・・・



とくべつ代表作というほどでもない、文庫本では10ページに満たない小品ですが、

ぼくは乱歩といえば この話を思い出します。


乱歩の怪奇ワールドは、ありがちな深夜の墓場より、むしろ炎天下の市中がよく似合う。

くらくらと麻痺していく日常の感覚。いつか来たことがあるような大都会の死角。

じっとりとにじむ汗のように、肌にまとわりついて逃れられない心理の迷宮・・・。


ぼくは 「乱歩生誕100年」 だった1994年を前後して、ほぼ全作読破しました。

彼と出会って以来、にぎやかな街の交差点での信号待ちが、ある意味で一番の恐怖を感じます。

これだけの衆目にさらされながら、乱歩はどんな恐怖を披露してくれるのだろう!?


『白昼夢』 は創元推理文庫 『D坂の殺人事件』 に収録。(上の写真)

併録の 『お勢登場』 『虫』 といった秀作短編も大好き。


このくそ暑い昼下がり、うっかり乱歩作品を手にとって、人間心理の闇に落ちていくのも一興ではないでしょうか。

ただし、予想以上にエロ&グロです。

かつて幼いぼくを悶々とさせ、震え上がらせた歴代の映像化作品が、可愛らしくすら思えます。

だから本音は、お勧めできません・・・。


 この短編集 『D坂の殺人事件』 は、明智初登場の表題作など秀作ぞろい。
 ほか、同じ創元推理文庫の 『江戸川乱歩集』 がお得。『人間椅子』 『屋根裏の散歩者』 『パノラマ島奇譚』 『陰獣』 など長短の代表作が3冊ぶん入って、2冊ぶんのお値段。どちらも 「はじめての乱歩」 にどうぞ。


 
21:05  |  この本!  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【この本!】 2015.07.29 (Wed)

谷崎恐怖症~『春琴抄』~

谷崎潤一郎 『春琴抄』

 今2015年は谷崎潤一郎の没後50年だとか。亡くなったのは1965年7月30日。(1886.7.24生)

 とはいえ、ぼくはまともに作品を読んだことがありません。
 子供のころテレビで百恵ちゃん&友和さんの映画 『春琴抄(1976東宝)』 を観て、あのとんでもない結末がトラウマになってしまったせい。今でも「針」を見るとこれを思い出します。
 谷崎恐怖症。


 『春琴抄』 は盲目の令嬢と、それにどこまでも献身的に仕える下男の、倒錯的な愛と主従。

 このたび原作小説を読んで不思議な味わいだったのは、「伝記や関係者に取材した」という体裁で、ルポルタージュかドキュメンタリーのような形式で書かれていたこと。
 耽美や被虐趣味にひたりきるのではなく、物語当時の社会や事情と照らしながら、ふたりの感情や立場をどこか客観的に論じているのが意外だった。

 冒頭からして、例の結末とその後の暮らしがあっさり明かされており、ただの「青春、純愛、異形」に終わらせていない。
 もっとも逆に、そういう生活の現実や老い、バッサリ否定される「思い出補正」などのほうが、ずっと残酷で生々しかったりするけど。


 行き過ぎた主従・師弟関係は、閉じきった世界でお互いに 「そうあらなければならない」 「そうあることを演じていた」 子供心と芸道ゆえだったか。その意味で、どこにでもある、誰にでもなりそうな物語。
 とにもかくにも、ヒロイン春琴の高慢ドSっぷり。ツンデレ好きには辛抱たまらんので、佐助になって夢中で読みましたが、例の目を突くシーンはやっぱり怖くて飛ばしました。

 そんなわけで抵抗感はいくらか和らぎましたが、ぼくの 「谷崎恐怖症」 は一生続くでしょう。

 
18:58  |  この本!  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【この本!】 2014.10.10 (Fri)

秋の漢詩をどうぞ

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  白居易 『新秋』

  西風飄一葉    西風がひとひらの葉をひるがえし
  庭前颯已涼    庭先をさっと涼しく吹き抜ける
  風池明月水    風の池には月明かりの水面
  衰蓮白露房    枯れゆく蓮には白露をつけた房が
  其奈江南夜    あぁ、江南の夜をどうしたものか
  綿綿自此長    ただ綿々と夜が長くなっていくだけだ



 ・・・秋、日に日に早まっていく夕暮れ。
 気が付くといつも空は暗く、夏好きなぼくにはこの上なくさびしい時間帯です。 涼しくていいかな、くらいに思っていた秋が、いつからか恨めしく思うようになりました。
 ここぞとばかり主役を気取る、月の澄んだ明かりもなぐさめにはなりません。

 同じ白居易の 『暮立』 より、最後の一節・・・



  大抵四時心総苦   たいていは四季それぞれに物悲しさを感じるものだが、
  就中腸断是秋天   中でも断腸の思いにさせられるのはまさに秋だ。



 冬至を過ぎればこっちのもの。それまではいっそ、夜なら夜で沈んでほしい秋の夕暮れです。

 
18:54  |  この本!  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑