【日本映画】 2018.02.08 (Thu)

三船と黒澤(前編)~『銀嶺の果て('47)』

三船×黒澤『銀嶺の果て』


 2017~18年は、三船敏郎(1997年12月没)と黒澤明(1998年9月没)の没後20年です。
 言わずと知れた、日本映画史上最強の名コンビ。

 「東宝ニューフェイス」 第1回オーディションの場。カメラマン志望なのに俳優部門に回されてふてくされていた三船を、噂を聞きつけた黒澤が無理に合格させた、というのは有名なエピソード。そこから始まる黄金の20年余――。
 このたび、その最初の共作 『銀嶺の果て('47)』(初鑑賞)と、最後の作品となった 『赤ひげ ('65)』 を観ました。


 三船のデビュー作 『銀嶺の果て』谷口千吉監督、黒澤は脚本を担当。1947年東宝。
 豪雪の日本アルプスに逃げ込んだ銀行強盗犯たちの顛末を描くサスペンス・ドラマ。人の温かさに触れて改心する志村喬に対し、三船は最後まで欲とエゴにまみれて破滅する若い強盗犯を演じる。

 彼も監督デビューだったという谷口監督の演出は迫力満点。本当に人が飲み込まれたかのような雪崩のシーンは、演出と編集の妙。また、雪原を疾走するスキーの美しさや、志村がピストルを崖から投げ捨てる=悪と決別する場面の荘厳さ・・・。昔のスタンダードサイズの小画面ながら、雪山の魅力を余すところなく活写しています。

 黒澤の脚本も娯楽と人間ドラマに富んでいて面白かった。
 事件に巻き込まれた登山家の、山男としての矜持に胸を打たれた。これを演じる河野秋武は黒澤の最初期作品で主役級を演じた常連だったが、このあと労使紛争 「東宝争議」 に身を投じて東宝を離れ、これが最後の黒澤作品となったのは皮肉。

 ほか、後の 『ゴジラ』 音楽で有名な伊福部昭にとっても初めての映画音楽だったそうで、前衛と大衆性が見事に融合。

 そして三船敏郎。
 野獣のようにギラギラした男くささ、デビュー作からして大器の片鱗がよく指摘されているが、むしろ器用で丁寧な演技だと感じた。がさつさや不器用さなんてものはない、深く真剣に取り組んでいるのが伝わってくる。実際とても細やかで気配りの人だったという三船の人柄が垣間見えたよう。
 三船は翌'48年、黒澤監督作 『酔いどれ天使』 にも主役として抜擢され、引き続き共演したベテラン志村喬とあわせて黒澤映画の名トリオがいよいよ完成する。


 戦後20年間、黒澤明全盛期の作風をひとことで言えば、「自立した個人には別々の自我・理想・利害があり、それが対等にぶつかり合う」というドラマ。
 それは『白痴('51、ドストエフスキー原作)』 や 『蜘蛛巣城('57、シェイクスピア『マクベス』翻案)』 といった西洋文学の本質そのものであり、人間社会の無慈悲・無理解の果てにはじめて精製される人間の美しさは、『野良犬('49)』 や 『生きる('52)』、『生きものの記録('55)』 などにも通底している。最高傑作 『七人の侍('54)』 はその生々しい激突の頂点というべきもの。

 敗戦によって古い日本的価値観からの脱却が求められた時代、日本人離れした三船のスケール感は、そんな黒澤世界を120%体現するうってつけのアイコンであった。しかし日本人が 「戦争の抑圧からの解放」 にも慣れ、黒澤自身も年を取り地位を成すと、個のぶつかり合いやその醜さ美しさは迫力を欠いていく。
 続きは後日。

 
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【アメリカ映画】 2017.12.08 (Fri)

世界の 「I am your father!」

A long time ago in a galaxy far, far away....
スターウォーズop
「遠い昔、はるか彼方の銀河系で....」


映画 『スター・ウォーズ』 の新作が公開ということで、このところテレビでも連日放送しています。

ルーク=島田敏、ベイダー=大平透、C3PO=野沢那智らによる往年の吹き替え版。

ハン・ソロ/ハリソン・フォード役は村井国夫さんじゃないのね (磯部勉)。


☆   ★   ☆


スターウォーズ最大の名シーンといえば、ダース・ベイダー衝撃の告白 「I am your father」

世界各国の吹き替え版を集めた動画があったので拝借します。ルーカスさんごめんなさい。



 
 【YouTube】 Star Wars - I am Your Father - (Multi-Langage) 20 Langues


ベイダー的悪役の源流であるドイツ版はさすがぴったり。お隣りスラヴ語圏のチェコも大迫力!

スペイン、イタリア、フランスなどラテン系はあまり似合っていないかな。でもどれもなかなかの健闘。

ただひとつ、ヘブライ語(イスラエル)版は思わずコケた! もうちょっと演出ってものがあるだろうに。


なお、オリジナルのジェームズ・アール・ジョーンズさんと、

子供のころから思い入れ深い御大・大平透さんは別格。

J・E・ジョーンズさんはよく、ハリウッド映画の「ナントカ長官、ナントカ将軍」を演じていて懐かしいですね。

あと、米アニメ 『ザ・シンプソンズ』 ファンのぼくとしては、ベイダー大平=ホーマーと

ルーク島田=クラスティの競演がなんか笑えて仕方ありません。いや笑っちゃいけないんだけど。


☆   ★   ☆


『スターウォーズ』 に関するネタはたくさんあって、ネットで有名なものばかりですけど、

機会があればまた取り上げてみます。

今夜のテレビ放送は旧3部作の最後 『エピソード6/Return of the Jedi』か。

(副題の日本語訳はわざわざ改題したのにイマイチなセンス。『指輪物語』の二番煎じ。「ジェダイの“復活”」のほうがしっくりくるのにね。)


May the Force be with you! フォースと共にあれ
 
18:56  |  アメリカ映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【欧州&世界映画】 2017.11.02 (Thu)

ドヌーヴ×ブニュエルの 『昼顔 (1967仏)』

ドヌーヴ『昼顔』ブニュエル

 カトリーヌ・ドヌーヴ主演、ルイス・ブニュエル監督による官能的な映画 『昼顔』。1967年フランス。

 いきなり、馬車の貴婦人が夫とその御者に凌辱されるシーンから始まって「!?」。でもすぐに現代パリに暮らす夫婦の部屋に変わり、それは妻の妄想だったことが分かる。
 裕福な生活と優しい夫の愛に恵まれながら、どこか満たされない想い。貞淑のヨロイを剥がされ汚されたい願望・・・。そして女は「昼顔」の名で娼館で働きはじめる。罪悪感と快楽のはざまで女の妄想は広がっていきます。

 ブニュエル監督は“現実”と“妄想”を明確に描き分けていないので、観客もヒロインの主観と同化してズルズルと欲望の淵に堕ちていくかのよう。キリスト教(カトリック)への反発もブニュエルらしいけど、お堅い社会派ではないので、この同化・共感できるかがカギ。


 やたら注文が多いドM執事プレイの客や、よく分からない日本人客のナゾすぎる日本描写など、小ネタ?がけっこう笑えた。
 また、冒頭シーンこそ妄想だと知らずドン引きさせられたけど、農夫姿の夫に罵られながら泥をぶつけられるシーンくらいになると、あのドヌーヴさまが汚されていく妄想にゾクゾクさせられました。
 あぁ、おいたわしやドヌーヴさま・・・(今だ、そこで投げろ!へんな編集は入れるな!)


 当時23歳、まだアイドル時代の印象を残すドヌーヴの官能的な演技は、どれだけ衝撃だったか。
 現代ならもっときわどい性の欲求や描写があふれているかもしれない。それにシュールレアリスムの雄ブニュエルの中では、これでもまだ道徳的でおとなしいほうだ (だからヒットした皮肉)。昔見たときは平凡に映ったけど、今ならかえってお上品でグイグイと惹きつけられました。サンローランの四角ばった衣装や、パリの薄汚れた裏通りがノスタルジックでいい雰囲気。とてもおもしろかった。


 『昼顔 (1967仏)』
監督・脚本/ルイス・ブニュエル (本作でヴェネチア映画祭金獅子賞。)
脚本/ジャン=クロード・カリエール (これら後期ブニュエル作品群で名を成した名手。
                     2014年には宮崎駿らと共にアカデミー名誉賞。)

撮影/サッシャ・ヴィエルニー (アラン・レネ監督や後年はピーター・グリーナウェイを支えた。)
主演/カトリーヌ・ドヌーヴ (実はすでに一時の母。また同年姉を事故で亡くしている。)
     ジャン・ソレル (夫ピエール。絵にかいたような二枚目。)
     ミシェル・ピコリ (嫌味な知人ユッソン。続編でも同じ役を演じたらしい。)
     ジュヌヴィエーヴ・パージュ (娼館のマダム。老け顔のドヌーヴより彼女の方がタイプです。)



 ラスト、窓の外を走る無人の馬車、そして彼女の耳に届いた鈴の音は、“妄想”からの解放だったのか。突きつけられる“現実”に彼女は勝てるのだろうか・・・。

 
19:19  |  欧州&世界映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【アメリカ映画】 2017.10.02 (Mon)

≪このアメリカ映画!≫書庫もくじ

  ≪アメリカ映画≫書庫もくじ

  世界の 「I am your father!」
  ビリー・ワイルダー作品の脇役おじさんたち

  真のアメリカの悲劇~『陽のあたる場所(1951米)』
  dog day な 『狼たちの午後(1975米)』
  隠れ名作/ポール・ニューマン『暴力脱獄(1967米)』
  『2001年宇宙の旅』ふたたび
  イースターだから 『イースター・パレード(1948米)』

  反戦をこめて・・・『ジョニーは戦場へ行った』
  『大脱走』 吹き替え版!
  ディズニーの 『白雪姫』
  原発と闘え!『チャイナ・シンドローム』
  ジャームッシュの 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』

  吹き替え版 『トータル・リコール(1990)』
  追悼…ホイットニーの 『ボディガード』
  『追憶』のハッピーエンド
  『ブルース・ブラザース』ネ申吹き替え!
  ジョン・バリーの『007』

  『サウンド・オブ・ミュージック』TV吹き替え版
  本物の女 『ジュリア('77米)』
  スピルバーグの『激突!』!!
  吹き替え映画まつり
  『あなただけ今晩は』~それはまた別の話

  デ・ニーロ&ハーマン『タクシー・ドライバー』
  '07-08アカデミー賞授賞式を見て
  『十二人の怒れる男』
  『バック・トゥ・ザ・フューチャー』!!!!
  『スタンド・バイ・ミー』異考

  ワタシが愛した007
  傑作コメディ『ギャラクシー・クエスト』!
  『ターミネーター』とハリーハウゼン
  2006年不眠の旅
  チャップリンのラスト・シーン

 
19:17  |  アメリカ映画  |  EDIT  |  上へ↑

【アメリカ映画】 2017.10.01 (Sun)

ビリー・ワイルダー作品の脇役おじさんたち

B・ワイルダー『深夜の告白』
『深夜の告白(1944米)』

 ビリー・ワイルダー監督初期の映画 『深夜の告白(1944米)』 を観ました。
 「保険金殺人サスペンス」 の先駆けになった、フィルム・ノワールの古典。保険セールスマンが富豪の美しき後妻にそそのかされ、その夫殺しに加担してしまうお話――このあと世界中で何百何千と作られるこの手のサスペンスのひな型になりました。

 しかし犯人が保険のプロなら、周りにいるのもその道のプロ。主人公の上司が富豪の変死をあやしんで、周到に仕組まれた計画をズバズバと暴いていくのです。もちろん上司はまさか部下が真犯人だとは知らないわけだから、観客は主人公と一緒に隣りでハラハラさせられる、という構図。

 主人公を狂わすヒロイン、バーバラ・スタンウィックの 「魔性の女(ファム・ファタール)」 っぷりもたまらなかったけど、この上司を演じたエドワード・G・ロビンソンがいい。金に細かくていつもセカセカしていて、だけど憎めなくて、最後には主人公とのアツい見せ場まで――どんどん魅力的になっていきました。

 ワイルダー監督作はコメディにしろサスペンスにしろ、脇役のおじさんが潤滑油になったり飛び道具になって、物語を豊かにふくらませてくれるのが魅力のひとつです。




B・ワイルダー『第十七捕虜収容所』
『第十七捕虜収容所('53)』

 『第十七捕虜収容所('53)』 では、ワイルダーとは同郷オーストリアの映画監督オットー・プレミンジャーがドイツ軍の所長を怪演。
 その始めのあいさつ、「アーヴィング・“ベルリン”のホワイト・クリスマス――Just like the ones I used to know」 に思わず吹いた。ねちねちとイヤミったらしい言い方もおかしい、この映画で一番印象に残っているギャグです。


B・ワイルダー『あなただけ今晩は』
『あなただけ今晩は('63)』

 『あなただけ今晩は('63)』 の、ピンチの主人公を助けるカフェのマスター(ルー・ジャコビ)が大好き! 起死回生の策をひねり出すたびに自身のとんでもない経歴を語って、「それは別の話 (But that's another story)」 とはぐらかすナゾの?男。 バカバカしいけどつい引き込まれてしまう飛び道具タイプ。


 また、『サンセット大通り('50)』エーリッヒ・フォン・シュトロハイム 『昼下がりの情事('57)』モーリス・シュヴァリエなど名匠名優は、脇役と呼ぶにはもったいない第三の主役として物語を重厚に軽妙に支えます。
 『情婦('57)』チャールズ・ロートンも表向きは主役だけど、狂言回しとして物語を支えるという点では同じ。(※でもぼくは、先にA・クリスティ原作のほうに衝撃を受けたので、コミカルな好々爺ロートンの主人公役はイメージが違って好きになれない!)


 しかしワイルダー作品最高の脇役おじさんといえば、やっぱり文句なしで 『お熱いのがお好き('59)』 のオズグッド3世(ジョー・E・ブラウン)で決まりだ!

B・ワイルダー『お熱いのがお好き』
『お熱いのがお好き('59)』

 金持ちも頂点を極めると、マリリン・モンローよりコッチ↑のほうが 「Zowie !」 になってしまうのか!!? 映画史上に燦然と輝く名ラストの名ゼリフ 「完璧な人間はいない (Nobody's perfect)」 は、混迷の現代社会を差し照らすひとすじの真理といえるでしょう。
 (向井真理子、広川太一郎、愛川欽也の名・吹き替え版もおもしろかった! 珍富豪役のJ・E・ブラウンも吹き替え・坊屋三郎さんも、名コメディアンとして鳴らした方だそうです。坊屋さんのテレビ機器のCM 『クイントリックス』 は見たことある。)


  ほか、『七年目の浮気('55)』 のエロ家主(ロバート・ストラウス)や、『アパートの鍵貸します ('60)』 のガンコ医師(ジャック・クラッシェン)など、クセが強い隣人たちも忘れがたい。
 もっと言うなら、師匠エルンスト・ルビッチの下で脚本を手掛けた 『ニノチカ('39)』 などにも面白おじさんの源流が。そんなおじさんたちの姿を借りて、敵国の体制も自らの正義も、性の不純も倒錯(とされること)もすべて、笑いで包み込む批判精神の伝統が見て取れます。
 21世紀になっても褪せることなどない、色あざやかなビリー・ワイルダーの世界。思い出すなあ、ぼくがワイルダー先生の一番弟子についていた時・・・おっと、それはまた別の話。

 
10:11  |  アメリカ映画  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【欧州&世界映画】 2017.07.13 (Thu)

≪欧州&世界映画≫書庫もくじ

  ≪欧州&世界映画≫もくじ (※クリックすると新しいウィンドウで開きます。)

  ドヌーヴ×ブニュエルの 『昼顔 ('67仏)』
  不愉快な幸福のカタチ~A・ヴァルダ『幸福('65仏)』
  大人の香港 『花様年華 ('00)』

  ブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』
  ルコント×ブラームス 『仕立て屋の恋』
  ソビエト映画 『ざくろの色』~亜欧の交差点にて
  甘ぁい『ロシュフォールの恋人たち』(だけどほろ苦い)
  続・夕陽の「良い奴、悪い奴、汚ねェ奴」

  ジャン・ルノワール 『ピクニック (1936仏)』
  クルーゾー×モンタン 『恐怖の報酬』
  『ひまわり(1970伊)』
  『男と女』、フランス冬の海
  ルイ・マルふたたび

  ジャッキーの強敵ベスト5!
  ブルース・リー、感じろ!
  ぼくの好きなラッセ・ハルストレム
  『黄金の七人』~イタリア版ルパン3世
  ギャバン&ドロンの『地下室のメロディー』

  新旧 『美女と野獣』
  『太陽がいっぱい』の名人芸
  ドイツ古典映画が好きです。
  ヴィスコンティにおぼれて
  死刑台のルイマルとマイルス

 
22:46  |  欧州&世界映画  |  EDIT  |  上へ↑

【欧州&世界映画】 2017.07.12 (Wed)

不愉快な幸福のカタチ~A・ヴァルダ『幸福('65仏)』

A・ヴァルダ『幸福』
アニエス・ヴァルダ監督 『幸福('65仏)』

 フランスの小さな田舎町。ひまわり咲く野山で憩う若い夫婦の一家。父に抱っこされ、母に手を引かれるヨチヨチ歩きの子供たちの、なんと愛らしいこと!(4人はほんものの家族だそうだ。)

 ボンコツながらも味のある古い型のライトバン。ふたり抱き合ってようやく収まる小さな小さなシングルベッド・・・。そして、時どき挿入されるひまわりの映像。カットバックの瞬間、色が乱れるぶっきらぼうな編集がヌーベルバーグっぽくてかっこいい。
 昔の映画フィルムならではのざらついた、けれど温かみのある画調は、日曜カメラマンの家族アルバムのようで親しみが湧いてきます。

 モーツァルトの室内楽にのせて、絵に描いたようなフランスの田舎の休日が描かれる。まさに絵に描いたような、これでもかとばかりの 「幸福」 にあふれた、アニエス・ヴァルダ監督1965年の映画 『幸福 〈しあわせ〉



 未見の方がいるのを承知でネタバレしますが、この映画はこんなにも温かい一家の愛で始まり、同じように一家の変わらぬ愛で終わります。

 ・・・が、それがたまらなく嫌な気持ちにさせるのです。
 べつに 「他人の幸福に嫉妬して」 なわけではないことは、実際にご覧になって追体験してみてください。怖ろしい映画です。

 はじめはこんなのに何千円も出させやがってと、DVDを割ってやろうかとすら思いました。フェミニストとして知られるアニエス・ヴァルダが、悪びれもせず、臆面もなくこんな映画を作ったことに失望もしました。

 でもふと思い返すと、気になって仕方ありません。少しずつ、不愉快な気持ちが自分自身への罪悪感のようなものに変わっていくことに気づきました。
 自分が幸福であればあるほど、不都合にフタをし、うわべだけの美しさに日々酔いしれている罪悪感。さらにはその罪悪感にすらフタをして、忘れて、あるいは気づきもせず生きている自分自身の姿を鏡で映された。



  
  【YouTube】 Le Bonheur (1965) Trailer


 一家「4人」の幸福をつづった予告編。核心の部分には触れていないのですが、物語を知ってからこれを見た方は“あのこと”に気づくでしょう。本気でゾッとします。(BGMはこのスリリングな 『アダージョとフーガ』 じゃなくて、どこまでものんびりな 『クラリネット五重奏曲』 のほうが、かえって怖いと思うんだけどな。)

 仏映画の “新しい波” ヌーヴェル・ヴァーグを先導したアニエス・ヴァルダ。その術中に見事にはまった、一本取られました。
 参った。
 
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