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【アメリカ映画】 2019.09.16 (Mon)

アメリカの良心 『アラバマ物語(1962米)』

『アラバマ物語』(1)

 先日、テレビの映画劇場で 『アラバマ物語』 をやっていた。1962年アメリカ。
 (KKKの発祥地でもある)黒人差別が根強く残る南部アラバマ州の田舎町を舞台に、子供の目線から社会の差別や偏見、その理不尽さを見つめる。

 リベラルのバイブルとも呼ばれる本作、弁護士の父親を名前の「アティカス」で呼ぶ、子供たちのくだけた態度が象徴的。


 町で若い白人女性が暴行され、家に出入りしていた黒人男性が逮捕される。父アティカスはこの黒人容疑者の弁護を請け負うことに。
 たまたま回ってきた頼まれ仕事。アティカスは必ずしも強い政治意識を持っているわけではないだろう (不気味な隣人“ブー”のことを「かわいそうな人だから構うな」で片付ける点からもそう)。子供の手前、難しくは語らないこともあるが、どこにでもいる平凡な、それでも当たり前の良心や「誇り」を持った父親像として描かれていく。

 (以下ネタバレ・・・)アティカスは裁判で健闘するも、白人男性ばかりが揃った陪審員団を取り崩せず、敗訴する。
 起立してアティカスを見送る2階席の黒人たちと、目を合わすことなく退廷するアティカスの後ろ姿は、本作最大の名シーンだ。務めをまっとうできなかった面目なさと、真実が伝わらない、正義が貫けない、人権が守れない・・・、さまざまな悔しさを背負った無言の後ろ姿は、何度見ても胸が詰まるものがあった。


 原題は 『To Kill a Mockingbird (ものまね鳥を殺すこと)』。
 きれいな声で鳴いていたばかりに撃たれたマネシツグミの悲運を歌う、たしか童謡か何かからの一節だったと思う。隣人としての善意が身を滅ぼすことになる社会の歪みは、純朴な子供の瞳にどう映ったか。
 邦題は大ざっぱすぎ。芸も信念もない日本の配給の仕事は今も昔も変わらず。

 しばらくぶりに再見した今では、「卑劣な白人」「誠実な黒人」の構図や演技がステレオタイプすぎるきらいがあった。
 が、アメリカの良心、その代表的名作としての価値が揺らぐことはないだろう。
 
00:08  |  アメリカ映画  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【日本映画】 2019.08.27 (Tue)

忘れられた原爆映画 『ひろしま(1953)』

『ひろしま(1953)』
(ソフト化されていないのでWikipedia内のスチール写真を拝借)

 この夏、NHKが特集していた映画 『ひろしま(1953)』。原爆の惨禍とその前後を描く、被爆からわずか8年後の作品。
 こんな映画があったなんて、不覚にもこのたび初めて知りました。ぜひ再放送してほしい。

 のべ9万人近い市民が参加したという人、人、人の映像力! それぞれの記憶と誓いを背負った人の波のうねりに圧倒。
 焼け野原を幽鬼の如くさまよう人の列、救護所の一面を埋め尽くす人の阿鼻叫喚・・・。崩落したコンクリートの建物も、当時はまだ原爆ドーム以外にも残されていた。かなた遠景まで広がる地獄絵図は、これまでなかなか真実を再現しきれなかった 「原爆映画」 の歴史を覆すだけの迫力がありました。

 ――ただし目を剥き体を揺するプロの俳優陣は演技が過剰 (重傷・大やけどを負ったらなるべく体が動かないよう、触れないよう幽霊のように歩くという)。始終かぶさる女声コーラスもお涙頂戴で鼻につく。
 死者が立ち上がるラストシーンも作為が過ぎる。制作にかける強い思いと意気込みは文句なく立派だが、肝心のプロの演出・演技のせいで、この被爆の場面は衝撃が半減した。


 ――被爆前後の物語パートも教示に富んでいました。
 『君が代』を歌いながら力尽き川に流されていく女学生たち。瓦礫の下で「軍人勅諭」を暗誦する少年。焼け出されて食うに食えない人の列の横で、なおも市民に奉国を強いる軍人の空疎な演説・・・。
 軍国主義と一体化した “平凡な” 市民生活。その洗脳と受容の根の深さには心底ぞっとさせられた。

 ラストは、被爆者の遺骨をアメリカに売って日銭を稼ぐ原爆孤児の青年。朝鮮戦争で使う爆弾工場で働くよりはましだという青年の叫びからは、「再軍備」 「逆コース」 の時代への恐怖と怒りが突き刺さりました。


 映画は日教組が企画したものを、映画界の有志が製作。
 大手映画会社は建前上 「アメリカに配慮して」 全国公開に二の足を踏み、そのまま埋もれて忘れ去られたというが、本音は戦争を否定されては困る日本人そのものの都合と利害によるのだろう。
 被爆・敗戦したそばから歴史を忘れ、被害者を口汚くなじる行為は今日まで連綿と続いている。従軍慰安婦像すら展示させない日本人に、戦争被害を語る説得力はあるのか。原爆も虐殺も性被害も、人類共通の悲劇として共感・共有できないこの国の現実に、もはや国単位でなく“横”の市民のつながりの重要性を感じました。


 『ひろしま(1953)』
 監督/関川秀雄
 出演/「…一般市民 延八万九千五百余人」
     岡田英次、月丘夢路、加藤嘉、山田五十鈴ほか


 
21:18  |  日本映画  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【日本映画】 2019.05.26 (Sun)

≪この日本映画!≫書庫もくじ

  ≪日本映画≫書庫もくじ

  忘れられた原爆映画 『ひろしま(1953)』

  天才監督・山中貞雄の『丹下左膳』
  小津 『お茶漬けの味('52)』 はお口に合いまして?
  納涼!『東海道四谷怪談(1959)』
  三船と黒澤(前編)~『銀嶺の果て(1947)』
  高峰×成瀬の『女が階段を上る時(1960)』

  『修羅雪姫』~梶芽衣子さまに斬られたい
  『ゴジラ』第1作だけあればいい
  武満徹、映画音楽の旅
  溝口健二 『祇園囃子('53)』 は美しいか
  小津安二郎をみたけれど (1)

  小津安二郎をみたけれど (2)
  おいしい映画 『南極料理人('09)』
  小津とおならと『お早よう』と
  小林正樹×橋本忍『切腹(1962)』
  勅使河原宏・安部公房『他人の顔(1966)』

  日米競演『Shallweダンス?』
  伊丹十三の大傑作『タンポポ』
  高峰×成瀬の『乱れる(1964)』
  小津安二郎『秋刀魚の味』
  時代劇の名悪役トリオ

  【黒澤明】
  クロサワ版マクベス
  黒澤映画の悪女・山田五十鈴
  黒澤映画の原節子
  黒澤明『静かなる決闘』・・・の千石規子
  黒澤明『隠し砦の三悪人…の雪姫』
  黒澤明没後10年『七人の侍』

  【名キャメラマン宮川一夫】
  溝口健二『雨月物語』
  稲垣浩『無法松の一生(1943“阪妻”版)』
  黒澤明『羅生門』
  市川崑『炎上』
  小津安二郎『浮草』
  映像の神様・宮川一夫

  【宮崎駿】
  ポニョと未来少年コナン
  天空の城ラピュタ、みました。
  カリオストロの城、みました。
  風の谷のナウシカ、みました。
 
19:07  |  日本映画  |  EDIT  |  上へ↑

【日本映画】 2019.05.25 (Sat)

天才監督・山中貞雄の『丹下左膳』

『丹下左膳余話・百萬両の壺』

 戦前の天才映画監督・山中貞雄(1909~1938)。戦争によって29歳の命を奪われたうえ、フィルムも散逸して現存する作品はわずか3作のみ。

 『丹下左膳余話・百萬両の壺』(1935)
 『河内山宗俊』(1936)
 『人情紙風船』(1937)


 それでもその3作いずれもが日本映画史上の傑作として現代でも親しまれている、恐るべき天才です――。


 『丹下左膳余話・百萬両の壺(1935日活)』
 大河内傳次郎の当たり役となったチャンバラ劇のニヒルなアウトロー「丹下左膳」を、ホームコメディにしてしまった奇想天外。
 (シリーズ3部作の堂々完結編をコメディにされて、原作者・林不忘はご立腹だったとか。前2作を大ヒットさせた監督・伊藤大輔が退社後の、誰もやりたがらなかった重すぎる後任。山中はならばと思いきり割りきって、自分色に染めあげたのだそう。)

 百万両のありかを記した壺をめぐる、左膳と柳生一門との争い・・・が物語としてありながら、おもしろいのは左膳とその女房・お藤の丁々発止の掛けあい。口を開けばケンカばかり、お互い嫌だ嫌だとさんざんゴネておいて、場面が変わると喜々として尽くしているこの笑いのセンスが抜群!
 山中はカメラをあまり動かさない代わりに、こういうカット編集だけで映画の躍動感、楽しさを与えてくれます。

 表向きはお藤の店の用心棒という左膳だが、平たく言えば女の「ヒモ」な生活。ライバルの柳生源三郎(演・沢村国太郎=長門裕之・津川雅彦兄弟の父)も、肩身の狭い婿養子をスネてる軽薄なキャラに変更。
 ほんとダメ男ばかり。だけど憎めない、これがまたおかしい!

 一方の女性陣は美女ぞろい。左膳の情婦「お藤」役の喜代三(きよぞう)さんは向こう気の強い姉御肌。メイクも現代的で、余計な飾り気がなくとも艶気あふれるこのカッコよさ! 芸者から流行歌手、そして本作での女優起用へ、という転身は当時画期的だったそうです。
 かたや店の娘役・深水藤子さんという方の、なんと可愛らしいこと! 山中監督とは恋仲だったそうで、源三郎がふらり見初めるシーンなど、特別な愛情をもって美しく撮ってもらっているのが分かります。(下の動画のサムネイル画像)


 ――世界恐慌に始まる不穏・不透明な時代に生まれた、異形異色のアンチヒーロー『丹下左膳』。先立つ伊藤大輔監督版では主君に捨てられ怨みの中死んでいった左膳が、山中の才覚でたまらなく可笑しくたまらなく愛おしい 「逆・異色作」 となって、21世紀のわれわれをも楽しませてくれます。

 しかし軍に招集された山中は戦地で病死。その後の戦火や困窮により生き残ったフィルムもわずか3作とは「チト、サビシイ 」 (山中)。命も文化遺産も灰と消した狂乱の時代を恨まずにはいられません。
 
20:24  |  日本映画  |  コメント(2)  |  EDIT  |  上へ↑

【欧州&世界映画】 2019.02.08 (Fri)

『戦艦ポチョムキン(1925)』~人におすすめするにはクセが強かった動画集その1


 お気に入りのマニアックなYouTube動画を、3回に分けてご紹介。今回はその1。無断で拝借ごめんなさい。
 ⇒第2弾、“猪木問答”モノマネ
 ⇒第3弾、昭和の自治体フィルム




『戦艦ポチョムキン』 [日本語字幕]『戦艦ポチョムキン』(1925) "Battleship Potemkin" (YouTubeへ)


 “映画の神様” セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の歴史的名作映画 『戦艦ポチョムキン』。1925年、ソ連。 (大先生をマニアック呼ばわりして、重ね重ねごめんなさい。)
 「モンタージュ(「構築」「組み立て」)」 と呼ばれる、場面場面のつながりで物語を紡いでいく映画のキホンを確立。

 映画史上伝説の名場面 「オデッサ階段」 のシーンもいいけどその前、20:00から始まる艦上の銃殺刑シーンにハラハラ!
 笑う艦長、おびえる反乱兵、うつむく他の船員たち、そして銃を構える兵、あるいは一見なんてことない事物や手元のアップなど・・・。これらの映像を計算してつなげることで、「誰が何を」の5W1Hがより感情的に劇的に伝わってくる。無表情で銃を構える兵たちは果たして引き金をひくのか!? 細かいお話は忘れていたので、今回ほんとうにドキドキした。(同じ無表情でも彼らの心が揺れ動き、最初と最後では感情が違うことが分かるだろう。)

 また、フィルムの堅い質感やメリハリのきいた陰影もカッコいい。ぼくにとっては、エイゼンシュテインといえばモンタージュ理論よりこういう映像の質感のイメージ。
 ショスタコーヴィチ作曲の交響曲(第5、10番など)も雰囲気にピッタリ!

 神様エイゼンシュテインをこれ以上語るほど偉くないので、今はこうやってタダでこっそり見るだけにしておきます。あの名作この名作が続々と著作権切れになって、お茶の間で手軽に楽しむことができて、いい時代になったもんだ・・・と言っていいもんだか。まあいいや。


 次回その2は、「元気ですかー!」のあの人の名場面・・・のモノマネした人。お楽しみに!


 
19:35  |  欧州&世界映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【アメリカ映画】 2018.11.19 (Mon)

≪このアメリカ映画!≫書庫もくじ

  ≪アメリカ映画≫書庫もくじ

  アメリカの良心 『アラバマ物語(1962米)』

  ハルストレムの佳品 『ギルバート・グレイプ('93米)』
  『大いなる西部 (1958米)』、対立の構図
  大女優競演 『何がジェーンに起ったか?』 『ミルドレッド・ピアース』
  世界の 「I am your father!」
  ビリー・ワイルダー作品の脇役おじさんたち

  真のアメリカの悲劇~『陽のあたる場所(1951米)』
  dog day な 『狼たちの午後(1975米)』
  隠れ名作/ポール・ニューマン『暴力脱獄(1967米)』
  『2001年宇宙の旅』ふたたび
  イースターだから 『イースター・パレード(1948米)』

  反戦をこめて・・・『ジョニーは戦場へ行った』
  『大脱走』 吹き替え版!
  ディズニーの 『白雪姫』
  原発と闘え!『チャイナ・シンドローム』
  ジャームッシュの 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』

  吹き替え版 『トータル・リコール(1990)』
  追悼…ホイットニーの 『ボディガード』
  『追憶』のハッピーエンド
  『ブルース・ブラザース』ネ申吹き替え!
  ジョン・バリーの『007』

  『サウンド・オブ・ミュージック』TV吹き替え版
  本物の女 『ジュリア('77米)』
  スピルバーグの『激突!』!!
  吹き替え映画まつり
  『あなただけ今晩は』~それはまた別の話

  デ・ニーロ&ハーマン『タクシー・ドライバー』
  '07-08アカデミー賞授賞式を見て
  『十二人の怒れる男』
  『バック・トゥ・ザ・フューチャー』!!!!
  『スタンド・バイ・ミー』異考

  ワタシが愛した007
  傑作コメディ『ギャラクシー・クエスト』!
  『ターミネーター』とハリーハウゼン
  2006年不眠の旅
  チャップリンのラスト・シーン

 
19:17  |  アメリカ映画  |  EDIT  |  上へ↑

【アメリカ映画】 2018.11.18 (Sun)

ハルストレムの佳品 『ギルバート・グレイプ('93米)』

『ギルバート・グレイプ』


 ラッセ・ハルストレム監督 『ギルバート・グレイプ』。1993年アメリカ映画。

 アメリカの小さな田舎町に暮らす青年ギルバート・グレイプ。
 過食症で動けないほど太った母、家を飛び出して音信不通の兄、知的障がいの弟アニー・・・。若いギルバートは残された一家の柱として働き、皆に気を配り、家族に社会に尽くして生きている。

 しかし彼の人柄はどこか偏屈で暗い。

 そこに彼の感情はあるのだろうか? 彼自身の人生はどこにあるのだろうか?
 逃げ出したくはならないのか。田舎町にも押し寄せる大手チェーン店の波に乗ろうとする若者もいる中、彼は動じない、変わらない。傾きかけた地元商店で今日も値札を張り続けている。
 家族ぐるみで知る人妻との不倫が、彼もまた血の通った人間である唯一の証明であるかのよう。当然そんな毎日の繰り返しが続くはずもなく、ついに弟に手を上げ、母の前で 「父の自殺」 という禁句を口にするギルバート。

 それでも、キャンピング・カーで放浪生活を送る女性ベッキーとの出会いが、彼の人生にほのかな明かりを灯すことになる。
 根無し草ゆえ永遠に「よそ者」であり続ける彼女は、手のかかるアニーと自然に打ち解け合い、太った母を笑うこともない。

 原題の 「What's eating ~」 は、「何をイライラしてるの?」 という表現だそうだ。ギルバートを悩ませるのは、母でも弟でも退屈な田舎社会でもないだろう。決して我慢や献身を強いられているわけではないのに、みずから何かを決めつけ、現状に「あきらめ」の根を張る人生・・・。
 喜怒哀楽なく生きた父を 「はじめから死んでいた」 と振り返るギルバートに、「似た人を知っている」 と返すベッキー。自由に見える彼女ですらそうだった。どの国どの社会も違わない。自由の中の呪縛を思った。

 人生と社会を寓話的に描くスウェーデンの名手ハルストレム。その記念すべきハリウッド進出作として大成功を収めた、青春映画の佳品。


 『ギルバート・グレイプ (What's eating Gilbert Grape)』

 監督/ラッセ・ハルストレム
 原作・脚本/ピーター・ヘッジズ
 出演/ジョニー・デップ (ギルバート・グレイプ)
      ジュリエット・ルイス (ベッキー)
      レオナルド・ディカプリオ (アニー・グレイプ)

 
21:33  |  アメリカ映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑