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【アメリカ映画】 2018.11.18 (Sun)

ハルストレムの佳品 『ギルバート・グレイプ('93米)』

『ギルバート・グレイプ』


 ラッセ・ハルストレム監督 『ギルバート・グレイプ』。1993年アメリカ映画。

 アメリカの小さな田舎町に暮らす青年ギルバート・グレイプ。
 過食症で動けないほど太った母、家を飛び出して音信不通の兄、知的障がいの弟アニー・・・。若いギルバートは残された一家の柱として働き、皆に気を配り、家族に社会に尽くして生きている。

 しかし彼の人柄はどこか偏屈で暗い。

 そこに彼の感情はあるのだろうか? 彼自身の人生はどこにあるのだろうか?
 逃げ出したくはならないのか。田舎町にも押し寄せる大手チェーン店の波に乗ろうとする若者もいる中、彼は動じない、変わらない。傾きかけた地元商店で今日も値札を張り続けている。
 家族ぐるみで知る人妻との不倫が、彼もまた血の通った人間である唯一の証明であるかのよう。当然そんな毎日の繰り返しが続くはずもなく、ついに弟に手を上げ、母の前で 「父の自殺」 という禁句を口にするギルバート。

 それでも、キャンピング・カーで放浪生活を送る女性ベッキーとの出会いが、彼の人生にほのかな明かりを灯すことになる。
 根無し草ゆえ永遠に「よそ者」であり続ける彼女は、手のかかるアニーと自然に打ち解け合い、太った母を笑うこともない。

 原題の 「What's eating ~」 は、「何をイライラしてるの?」 という表現だそうだ。ギルバートを悩ませるのは、母でも弟でも退屈な田舎社会でもないだろう。決して我慢や献身を強いられているわけではないのに、みずから何かを決めつけ、現状に「あきらめ」の根を張る人生・・・。
 喜怒哀楽なく生きた父を 「はじめから死んでいた」 と振り返るギルバートに、「似た人を知っている」 と返すベッキー。自由に見える彼女ですらそうだった。どの国どの社会も違わない。自由の中の呪縛を思った。

 人生と社会を寓話的に描くスウェーデンの名手ハルストレム。その記念すべきハリウッド進出作として大成功を収めた、青春映画の佳品。


 『ギルバート・グレイプ (What's eating Gilbert Grape)』

 監督/ラッセ・ハルストレム
 原作・脚本/ピーター・ヘッジズ
 出演/ジョニー・デップ (ギルバート・グレイプ)
      ジュリエット・ルイス (ベッキー)
      レオナルド・ディカプリオ (アニー・グレイプ)

 
21:33  |  アメリカ映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【日本映画】 2018.10.17 (Wed)

『お茶漬けの味('52日)』 はお口に合いまして?

小津安二郎『お茶漬けの味』

 BSで黒澤明小津安二郎の映画を特集していました。小津の何本かは観たことがなかったので、保存用に録画しました。
 その一本、中年夫婦の倦怠期を描く 『お茶漬けの味』。1952年。田舎育ちで無口な夫(佐分利信)と、お嬢様として育った勝気な妻(木暮実千代)のお話。


 最初の1時間は、キャラクターが退屈でたまらなかった。
 温泉宿での「女子会」の、男の筆が見えるリアリティのなさ。古い日本の女の家庭観・男女観に付き合わされるのはつらい。彼女たちがそれ以上に古い日本の男にうんざりしているように。新憲法からまだ5年、戦前を引きずる社会の幼稚さ未熟さが垣間見える。
 小津が造形する若者像も相変わらずつまらない。お見合いをすっぽかした姪(津島恵子)が叔父の家に逃げてくるって、まぁご都合よろしいこと。彼女に自分の世界はないのかしら。お友達いないのかしら。

 後半ようやく、積もり積もった妻の不満が爆発してお話が動き出す。
 「鈍感さん」とあだ名された夫は自分の野暮無粋を詫び、「君は君のままでいい」と歩み寄る。ところが今度は妻の方が話し合いを拒否、ボタンの掛け違いが重なっていく。
 そこで派手な仕掛けを用意するでなく、時間の経過と人間の良識を信じて「雪解け」していくのが小津らしい自然な味つけ。(考えこむ妻のカットに頼りすぎではあるが。)


 お手伝いさん(感情がない役なのに重要に映る小園蓉子に家事いっさいを任せている、生活のリアルに追われる必要のないエリート家庭の物語。だからこそラスト、なんてことない「お茶漬けの味」が格別なものになるのだろう。
 ツンの後のデレが小津にしてはくどすぎたのと、「男は中身だ」と説教くさい結び。ようやく小津が分かる歳になったのに、またガクンときた。口直しには何がいいだろうか。


『お茶漬けの味 (1952松竹)』

監督/小津安二郎
脚本/小津安二郎、野田高梧
撮影/厚田雄春 (前後へのドリー<移動>撮影が新鮮な情感!)
音楽/斎藤一郎

主演/佐分利信、木暮実千代、津島恵子、鶴田浩二、淡島千景
(こういう勝気な女性をやらせたら、木暮姐さんの右に出るものなし。もっとも脇の淡島姐さん共々、まだ力をセーブした変身前のフリーザ様って感じ。こんなものではありませんよ。)


 
18:53  |  日本映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【欧州&世界映画】 2018.10.11 (Thu)

脱獄するなら…ベッケルの『 穴 ('60仏)』

ジャック・ベッケル『 穴 』

ジャック・ベッケル監督の遺作となった映画 『穴』。1960年フランス。

刑務所からの脱獄を企てる囚人一味の、世にもあざやかな“プロ”の計画。


大予算のアメリカ映画とはひと味違う、フランス映画らしい硬派なつくり。

音楽はなく、ただ無感情に機械的に掘られていく穴、穴、穴・・・。


たとえばヒッチコックなら、穴を掘る囚人と近づく看守を交互に見せて、スリルを盛り上げるだろう。

しかし本作のカメラは狭苦しい監房に寄り添い、穴を掘る手元を写すだけ。

周りの状況が見えない、判らないからいつ破たん<カタストロフィー>が来るやも知れず、ハラハラ!

一方で、画面の横から伸びてくる手が土をかき出し、次の道具を受け渡す――

――そのチームプレイ、手際の良さときたら!

その職人仕事に感心すらしました。 あんたがた、じゅうぶんシャバで食ってけるでしょうよ。


鏡の破片と歯ブラシで“潜望鏡”を作ったり、土質や刑務所内部など描写は詳細にわたる。

砂時計も手作り。見てきたかのような名アイディアの数々。

それもそのはず、計画を主導するリーダー格の男は、この事件のモデルとなったご本人・・・

・・・って実話だったのかよ! しかも本人出演って!


堅いセメントをほんとに打ち壊していく轟音と息遣いが、これもまた「人間の営み」であることを

かろうじて思い出させてくれる。かろうじて。

ハリウッドの痛快娯楽 『大脱走』 にはない、この突き放したつめたさがいい。


ふたつの大戦や旧植民地諸国との独立戦争で疲弊・閉塞しきった、戦後フランスの「あきらめ」や

蟷螂(とうろう)の斧に似たむなしい「あがき」が突き刺さる、脱獄ものの傑作です。

牢獄から逃げおおせたところで、この世界のどこに自由があるのだろう?
 
08:00  |  欧州&世界映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【アメリカ映画】 2018.09.14 (Fri)

≪このアメリカ映画!≫書庫もくじ

  ≪アメリカ映画≫書庫もくじ

  ハルストレムの佳品 『ギルバート・グレイプ('93米)』
  『大いなる西部 (1958米)』、対立の構図
  大女優競演 『何がジェーンに起ったか?』 『ミルドレッド・ピアース』
  世界の 「I am your father!」
  ビリー・ワイルダー作品の脇役おじさんたち

  真のアメリカの悲劇~『陽のあたる場所(1951米)』
  dog day な 『狼たちの午後(1975米)』
  隠れ名作/ポール・ニューマン『暴力脱獄(1967米)』
  『2001年宇宙の旅』ふたたび
  イースターだから 『イースター・パレード(1948米)』

  反戦をこめて・・・『ジョニーは戦場へ行った』
  『大脱走』 吹き替え版!
  ディズニーの 『白雪姫』
  原発と闘え!『チャイナ・シンドローム』
  ジャームッシュの 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』

  吹き替え版 『トータル・リコール(1990)』
  追悼…ホイットニーの 『ボディガード』
  『追憶』のハッピーエンド
  『ブルース・ブラザース』ネ申吹き替え!
  ジョン・バリーの『007』

  『サウンド・オブ・ミュージック』TV吹き替え版
  本物の女 『ジュリア('77米)』
  スピルバーグの『激突!』!!
  吹き替え映画まつり
  『あなただけ今晩は』~それはまた別の話

  デ・ニーロ&ハーマン『タクシー・ドライバー』
  '07-08アカデミー賞授賞式を見て
  『十二人の怒れる男』
  『バック・トゥ・ザ・フューチャー』!!!!
  『スタンド・バイ・ミー』異考

  ワタシが愛した007
  傑作コメディ『ギャラクシー・クエスト』!
  『ターミネーター』とハリーハウゼン
  2006年不眠の旅
  チャップリンのラスト・シーン

 
19:17  |  アメリカ映画  |  EDIT  |  上へ↑

【アメリカ映画】 2018.09.13 (Thu)

『大いなる西部 (1958米)』、対立の構図


大いなる西部(ポスター)


 名匠ウィリアム・ワイラー監督、グレゴリー・ペック主演の映画 『大いなる西部』。1958年。

 西部開拓時代のテキサス。ふたつの大農場の争いに巻き込まれた東部出身の男が、静かなる闘志と強固な精神によって困難に立ち向かっていく物語。
 西部劇といっても撃ち合いやアクションはあまりなく、雄大な自然の下での人間模様をスケール豊かに描く、ワイラー円熟の逸品です。
 有名なテーマ曲(ジェローム・モロス作)は、日本のテレビ番組でも「大いなるアメリカ西部」のイメージでよく使われていますね。カッコいい! 

 主人公の婚約者 「テリル」 という姓は初めて聞いたので調べたら、アングロサクソン系の苗字なんだとか。 つまり先祖はイングランドで、宗教はプロテスタント。
 その立ち居振る舞いから分かるとおりエリート志向が強く、「WASP (ホワイト、アングロ・サクソン、プロテスタント)」 といえばアメリカ保守派の代名詞になりました。
 もっともらしい正義を掲げて 「私的な戦争」 を始める独善は、21世紀のブッシュまったくそのまま。 理不尽であっても主人の後を1人2人と部下が続くシーンは、感動的な演出のようでいてゾッと寒気がした。

 一方、敵対する 「ヘネシー」 家はアイルランド系の苗字。(かの有名なコニャック・ブランデーを始めたリチャード・ヘネシーも、アイルランドから渡仏した移民。)
 アイルランドの宗教はカトリック。 イングランドとは領土や宗教問題で根深い対立を抱えているのはご存知の通りです。アメリカの観客にすれば、この両家の名前・風貌・言葉のなまりなどから、憎しみあっていることがひと目で分かる構図になっているのでしょう。
 アイルランド系の「負」のステレオタイプである、無教養な荒くれ息子たちはどうしようもないバカですが、親父さんは物事の道理が分かるひとかどの人物であることから、観客は両家を公平に見ていられるようバランスがとられています。(演じたバール・アイヴスがアカデミー助演男優賞を受賞したことから、アメリカ人観客もじゅうぶん彼らにシンパシーを感じたのだろう。)


 そして主人公 「マッケイ」。 あたまに 「Mac、Mc」 がつくのは 「~の子」 という意味の、典型的なスコットランド系の苗字。スコットランドではカトリックとプロテスタントが拮抗しており、両派の仲裁役としてまさにうってつけ。
 そもそも演じるG・ペックその人も、イングランドとアイルランド両方の血を引いているのだから、これ以上ないハマリ役です。(あと主人公は船長だというから 「海vs.大地」の気質という比較もできる。)

 ほか 「東部の人間=上品、教養、ずるがしこい、冷酷・・・」、「西部の人間=勇敢、義理人情、無知無学、野蛮・・・」 という対立構図もアメリカ映画の定番だし、ジーン・シモンズ演じるもうひとりのヒロイン 「マラゴン」 はスペイン系みたいなので、これも国境地帯テキサスでは大きな意味を含んでいます。

 ちなみにワイラー監督は、長く仏独が領有を争ったアルザス地方出身のユダヤ系。彼が生まれたときはドイツ領でしたが、現在はフランス領という複雑さ。ワイラーもまた、相容れない宿敵どうしの争いを肌に感じて育った人でありました。
 
20:11  |  アメリカ映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【日本映画】 2018.07.20 (Fri)

≪この日本映画!≫書庫もくじ

  ≪日本映画≫書庫もくじ

  小津 『お茶漬けの味('52)』 はお口に合いまして?
  納涼!『東海道四谷怪談(1959)』
  三船と黒澤(前編)~『銀嶺の果て(1947)』
  高峰×成瀬の『女が階段を上る時(1960)』

  『修羅雪姫』~梶芽衣子さまに斬られたい
  『ゴジラ』第1作だけあればいい
  武満徹、映画音楽の旅
  溝口健二 『祇園囃子('53)』 は美しいか
  小津安二郎をみたけれど (1)

  小津安二郎をみたけれど (2)
  おいしい映画 『南極料理人('09)』
  小津とおならと『お早よう』と
  小林正樹×橋本忍『切腹(1962)』
  勅使河原宏・安部公房『他人の顔(1966)』

  日米競演『Shallweダンス?』
  伊丹十三の大傑作『タンポポ』
  高峰×成瀬の『乱れる(1964)』
  小津安二郎『秋刀魚の味』
  時代劇の名悪役トリオ

  【黒澤明】
  クロサワ版マクベス
  黒澤映画の悪女・山田五十鈴
  黒澤映画の原節子
  黒澤明『静かなる決闘』・・・の千石規子
  黒澤明『隠し砦の三悪人…の雪姫』
  黒澤明没後10年『七人の侍』

  【名キャメラマン宮川一夫】
  溝口健二『雨月物語』
  稲垣浩『無法松の一生(1943“阪妻”版)』
  黒澤明『羅生門』
  市川崑『炎上』
  小津安二郎『浮草』
  映像の神様・宮川一夫

  【宮崎駿】
  ポニョと未来少年コナン
  天空の城ラピュタ、みました。
  カリオストロの城、みました。
  風の谷のナウシカ、みました。
 
19:07  |  日本映画  |  EDIT  |  上へ↑

【日本映画】 2018.07.19 (Thu)

納涼!『東海道四谷怪談(’59)』

『東海道四谷怪談(1959)』DVD

 暑い夏には映画 『東海道四谷怪談』
 中川信夫監督、1959年、新東宝。

 ごぞんじ 「お岩さん」 の悲劇。
 子供のころ、雑誌に写真が載っていてめちゃくちゃ怖かった記憶がある。今回初めて観ます――。


 どこまでも人生に受け身で簡単にだまされる、古い日本の女性像がまったくおもしろくない。
 ようやく、夫・伊右衛門に裏切られ毒を盛られるかの名場面 「この恨み、晴らさずにはおくべきか」 は、それまでの服従と忍耐が一気に爆発して真に迫るものがあった。
 しかしそこからの彼女は、お化け屋敷の「おどろかし」に終始。それはそれで畳みかける恐怖、迫力ある映像演出ではあったのだが、女性の内面描写という点では現代ではまったく物足りなかった。お岩を体当たりで演じたのは若杉嘉津子さん。

 対する夫・民谷伊右衛門を演じるのは若き天地茂さん。
 不実の果てにお岩の亡霊に狂乱する、怒涛のクライマックス! なるほど本作は彼が主役だ。すさんだ生活の中で妻に飽き、疎みながらもいざ殺すとなるとためらいを見せる多層的な人間像。こういう深みをお岩にも与えてほしかった。
 ニヒル、ダークな “マダムキラー” 天地さんにとって出世作になったそうだ。伊右衛門をそそのかす直助役・江見俊太郎さんの、軽薄なずるがしこさも強く印象に残った。


 撮影はのちにブルース・リー作品など香港映画で重きをなす西本正さん。美術はこれら怪談映画で活躍した黒沢治安さんという方。照明の折茂重男さんや編集の永田紳さんらも併せて、テンポのいい映像は素晴らしかった。
 音楽はアニソンの巨匠・渡辺宙明さんだったのか。たしかにマジンガーみたいなティンパニ連打がチューメイさんらしいや。
 
22:42  |  日本映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑