【欧州&世界映画】 2017.11.02 (Thu)

ドヌーヴ×ブニュエルの 『昼顔 (1967仏)』

ドヌーヴ『昼顔』ブニュエル

 カトリーヌ・ドヌーヴ主演、ルイス・ブニュエル監督による官能的な映画 『昼顔』。1967年フランス。

 いきなり、馬車の貴婦人が夫とその御者に凌辱されるシーンから始まって「!?」。でもすぐに現代パリに暮らす夫婦の部屋に変わり、それは妻の妄想だったことが分かる。
 裕福な生活と優しい夫の愛に恵まれながら、どこか満たされない想い。貞淑のヨロイを剥がされ汚されたい願望・・・。そして女は「昼顔」の名で娼館で働きはじめる。罪悪感と快楽のはざまで女の妄想は広がっていきます。

 ブニュエル監督は“現実”と“妄想”を明確に描き分けていないので、観客もヒロインの主観と同化してズルズルと欲望の淵に堕ちていくかのよう。キリスト教(カトリック)への反発もブニュエルらしいけど、お堅い社会派ではないので、この同化・共感できるかがカギ。


 やたら注文が多いドM執事プレイの客や、よく分からない日本人客のナゾすぎる日本描写など、小ネタ?がけっこう笑えた。
 また、冒頭シーンこそ妄想だと知らずドン引きさせられたけど、農夫姿の夫に罵られながら泥をぶつけられるシーンくらいになると、あのドヌーヴさまが汚されていく妄想にゾクゾクさせられました。
 あぁ、おいたわしやドヌーヴさま・・・(今だ、そこで投げろ!へんな編集は入れるな!)


 当時23歳、まだアイドル時代の印象を残すドヌーヴの官能的な演技は、どれだけ衝撃だったか。
 現代ならもっときわどい性の欲求や描写があふれているかもしれない。それにシュールレアリスムの雄ブニュエルの中では、これでもまだ道徳的でおとなしいほうだ (だからヒットした皮肉)。昔見たときは平凡に映ったけど、今ならかえってお上品でグイグイと惹きつけられました。サンローランの四角ばった衣装や、パリの薄汚れた裏通りがノスタルジックでいい雰囲気。とてもおもしろかった。


 『昼顔 (1967仏)』
監督・脚本/ルイス・ブニュエル (本作でヴェネチア映画祭金獅子賞。)
脚本/ジャン=クロード・カリエール (これら後期ブニュエル作品群で名を成した名手。
                     2014年には宮崎駿らと共にアカデミー名誉賞。)

撮影/サッシャ・ヴィエルニー (アラン・レネ監督や後年はピーター・グリーナウェイを支えた。)
主演/カトリーヌ・ドヌーヴ (実はすでに一時の母。また同年姉を事故で亡くしている。)
     ジャン・ソレル (夫ピエール。絵にかいたような二枚目。)
     ミシェル・ピコリ (嫌味な知人ユッソン。続編でも同じ役を演じたらしい。)
     ジュヌヴィエーヴ・パージュ (娼館のマダム。老け顔のドヌーヴより彼女の方がタイプです。)



 ラスト、窓の外を走る無人の馬車、そして彼女の耳に届いた鈴の音は、“妄想”からの解放だったのか。突きつけられる“現実”に彼女は勝てるのだろうか・・・。

 
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【欧州&世界映画】 2017.07.13 (Thu)

≪欧州&世界映画≫書庫もくじ

  ≪欧州&世界映画≫もくじ (※クリックすると新しいウィンドウで開きます。)

  ドヌーヴ×ブニュエルの 『昼顔 ('67仏)』
  不愉快な幸福のカタチ~A・ヴァルダ『幸福('65仏)』
  大人の香港 『花様年華 ('00)』

  ブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』
  ルコント×ブラームス 『仕立て屋の恋』
  ソビエト映画 『ざくろの色』~亜欧の交差点にて
  甘ぁい『ロシュフォールの恋人たち』(だけどほろ苦い)
  続・夕陽の「良い奴、悪い奴、汚ねェ奴」

  ジャン・ルノワール 『ピクニック (1936仏)』
  クルーゾー×モンタン 『恐怖の報酬』
  『ひまわり(1970伊)』
  『男と女』、フランス冬の海
  ルイ・マルふたたび

  ジャッキーの強敵ベスト5!
  ブルース・リー、感じろ!
  ぼくの好きなラッセ・ハルストレム
  『黄金の七人』~イタリア版ルパン3世
  ギャバン&ドロンの『地下室のメロディー』

  新旧 『美女と野獣』
  『太陽がいっぱい』の名人芸
  ドイツ古典映画が好きです。
  ヴィスコンティにおぼれて
  死刑台のルイマルとマイルス

 
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【欧州&世界映画】 2017.07.12 (Wed)

不愉快な幸福のカタチ~A・ヴァルダ『幸福('65仏)』

A・ヴァルダ『幸福』
アニエス・ヴァルダ監督 『幸福('65仏)』

 フランスの小さな田舎町。ひまわり咲く野山で憩う若い夫婦の一家。父に抱っこされ、母に手を引かれるヨチヨチ歩きの子供たちの、なんと愛らしいこと!(4人はほんものの家族だそうだ。)

 ボンコツながらも味のある古い型のライトバン。ふたり抱き合ってようやく収まる小さな小さなシングルベッド・・・。そして、時どき挿入されるひまわりの映像。カットバックの瞬間、色が乱れるぶっきらぼうな編集がヌーベルバーグっぽくてかっこいい。
 昔の映画フィルムならではのざらついた、けれど温かみのある画調は、日曜カメラマンの家族アルバムのようで親しみが湧いてきます。

 モーツァルトの室内楽にのせて、絵に描いたようなフランスの田舎の休日が描かれる。まさに絵に描いたような、これでもかとばかりの 「幸福」 にあふれた、アニエス・ヴァルダ監督1965年の映画 『幸福 〈しあわせ〉



 未見の方がいるのを承知でネタバレしますが、この映画はこんなにも温かい一家の愛で始まり、同じように一家の変わらぬ愛で終わります。

 ・・・が、それがたまらなく嫌な気持ちにさせるのです。
 べつに 「他人の幸福に嫉妬して」 なわけではないことは、実際にご覧になって追体験してみてください。怖ろしい映画です。

 はじめはこんなのに何千円も出させやがってと、DVDを割ってやろうかとすら思いました。フェミニストとして知られるアニエス・ヴァルダが、悪びれもせず、臆面もなくこんな映画を作ったことに失望もしました。

 でもふと思い返すと、気になって仕方ありません。少しずつ、不愉快な気持ちが自分自身への罪悪感のようなものに変わっていくことに気づきました。
 自分が幸福であればあるほど、不都合にフタをし、うわべだけの美しさに日々酔いしれている罪悪感。さらにはその罪悪感にすらフタをして、忘れて、あるいは気づきもせず生きている自分自身の姿を鏡で映された。



  
  【YouTube】 Le Bonheur (1965) Trailer


 一家「4人」の幸福をつづった予告編。核心の部分には触れていないのですが、物語を知ってからこれを見た方は“あのこと”に気づくでしょう。本気でゾッとします。(BGMはこのスリリングな 『アダージョとフーガ』 じゃなくて、どこまでものんびりな 『クラリネット五重奏曲』 のほうが、かえって怖いと思うんだけどな。)

 仏映画の “新しい波” ヌーヴェル・ヴァーグを先導したアニエス・ヴァルダ。その術中に見事にはまった、一本取られました。
 参った。
 
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【欧州&世界映画】 2016.10.17 (Mon)

大人の香港 『花様年華 ('00)』

王家衛『花様年華』


 ウォン・カーウァイ監督の香港映画 『花様年華』。2000年。
 同じアパートメントに越してきた、妻ある男と夫ある女が恋に落ちる――。
 舞台は1960年代。時代がかった大仰なタイトル・クレジット、雑然とした街並みやヒロインたちの美しいチャイナドレスが、熱く沸騰するノスタルジーをさそう。あぁ古き良き香港!


 主演はマギー・チャントニー・レオン
 この大人のふたりにうっとり!もう、このふたりを見てるだけで満足。(日本でリメイクするなら間違いなく高峰秀子と佐田啓二だ。・・・昔の人だけど。)

 何と言っても、日替わりで魅せてくれるマギー・チャンのハイカラーのチャイナドレス! 侵しがたい高雅な気品と、それでもぶち破ってみたい濃密なエロティシズムと。(ぼくにその「勇気」があるだろうか。)
 タイトルの 「花様年華(かようねんか)」 は、女性の花盛りの年ごろを表す言葉だそうだ。 もちろん、まだ10代のお嬢ちゃんなんかのことを指すわけではありません。彼女が 「愛する人に裏切られるリハーサル」 で見せるあの失望の表情は絶品!


 扉や壁で空間を切り取り、あまり全景を映さない画面。男女それぞれのパートナーも最後まで姿を見せない。肝心のふたりだって、肉体関係をほのめかすような描写すらない。

 ――何かが起こるわけではない、すべてを見せるわけではない物語。
 ふたりはせわしい生活の中で、交差する時間に身を置くだけ。それだけで満足だったかもしれない。しかしそうやって人は年を取り、失ってはじめてあの時代はもう戻らないことに気付く。
 感情の爆発はなかったことに出来るかもしれない。しかし現実の人生に 「リハーサル」 はないと気付いたとき、人ははじめて愛の痛みを知る--。


 監督ウォン・カーウァイ(王家衛)、撮影クリストファー・ドイル、そして美術&衣装ウィリアム・チャン(張叔平)
 1990年代、ポップな映像感覚で香港映画に革命をもたらした名トリオが、ミレニアムの年にオトナのムードをまとって「旧世紀」の愛をつづる。

 真紅のカーテンを揺らす真っ赤なコートの鮮烈は、これぞウォン・カーウァイ光線<ビーーム>!
 あぁ、こんな大人にあこがれる・・・。

 
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【欧州&世界映画】 2016.07.09 (Sat)

ブラジル映画 『シティ・オブ・ゴッド』

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 '02年のブラジル映画 『シティ・オブ・ゴッド』 はすばらしかった。
 リオのスラム街に生きる少年ギャングたちの20余年をギラギラと描く、衝撃のバイオレンス。

 監督はCM出身のフェルナンド・メイレレス。 冒頭の、ニワトリをさばいていく短いカットの連続からして、どこか非凡なリズム感。
 つづいて最初のエピソード・・・主人公の兄世代の物語をまずじっくり見せておいて、そこから怒涛のエネルギー速射砲。ここからがすごい!

 エピソードごとに主役を入れ替え、時間軸を大胆に巻き戻し&早送りしながらも、明快な語り口と卓越した構成力で混乱もなく飽きさせない。 (物語が頼りなく漂流する北野武監督とはまったく対照的。)

 一方で、ストレートな血なまぐささを和らげるユーモア。 映画の結末もずいぶん皮肉めいていて背筋が寒くなる半面、哀れな道化のようなおかしみがあった。
 そしてエンド・ロール、出演者の顔写真でもうひと驚き。そうだったんだ・・・! (リトル・ゼぶさいく)

 少年どうしが殺し合う映画なのでハナっから拒絶反応の人もいるだろうし、観るにしてもそれなりの気合が必要。 だが映画的には、一時の感情で人を殺す子供だからこそ、次の展開が読めずハラハラさせられた。
 広くおすすめはしないけど、新興国からここまで完成度の高い作品が出てきたことは、とても感慨深い喜びを感じます。


 ・・・最後に (何かで読んだ指摘の受け売りだが、) 年間3万人が銃で命を落とすというブラジル。この残酷な物語を 「ひどい、信じられない」 と誰もがおどろき悲しむだろうが、かくいう日本だって年間3万人が自殺する国なのだ!
 ブラジル人にすれば、日本こそ 「信じられない」 社会だろう。 人のことを言ってる場合じゃない現実が、地球の裏表で動いている。

 
09:52  |  欧州&世界映画  |  コメント(0)  |  EDIT  |  上へ↑

【欧州&世界映画】 2016.01.18 (Mon)

ルコント×ブラームス 『仕立て屋の恋』

『仕立て屋の恋』

 ラジオからブラームス『ピアノ四重奏曲第1番』 が流れてきました。
 官能的な第4楽章が 「ジプシー風ロンド」 と呼ばれて有名。そして同時に、パトリス・ルコント監督1989年の出世作 『仕立て屋の恋』 を思い出させます。


 【YouTube検索ページ】 『仕立て屋の恋』 予告編


 向かいのアパートメントの美女に恋をした孤独な男。彼は声をかけるでも触れるでもなく、ただ窓から彼女の姿をのぞき見するだけ。やがて、自分を見つめる視線に気づく女――

 ――始まりはとんだ変態ストーカー話だったのですが、そこから物語は狂おしいほど切ない方向に動きだします――

 ――あろうことか、みずから男に接近する女。からかいか、自分も求めているのか、それとも・・・?


 女のそれがいつわりだと分かっていても、何とかして想い人をつなぎ留めたい男の訴え、すごく分かります。あの「2枚のチケット」はぼくも人のこと言えなかったから。
 むしろ「偽り」だからのめり込んでしまったのかもしれない。はた目には叶うはずのない愚かな期待に酔ってしまうように。

 そしてクライマックス、あの一瞬のスローモーション! 今でこそよく見るカメラ演出になったけど、当時はしびれまくったものだ。
 主人公目線で動くカメラ。(それまでとは逆の立場になって)窓から自分をのぞく顔。なんて残酷で切ない結末だろう。


 匂いや指先の愛撫などルコント監督らしいフェティシズムを交え、官能美薫るサスペンスとして忘れがたい名作に。
 そして、印象的なブラームスの 「ジプシー風ロンド」。はじめはタンゴか何かラテンの調べだと思ってた。クラシック曲でも指折りの扇情的な旋律を、真面目で保守的と言われたあのブラームスが作ったというのも驚きです。



 『仕立て屋の恋 (1989仏)』

 監督/パトリス・ルコント
 原作/ジョルジュ・シムノン (古典推理小説の大家)
 主演/ミシェル・ブラン
     サンドリーヌ・ボネール
 音楽/マイケル・ナイマン
 挿入曲/ブラームス 『ピアノ四重奏曲第1番』


 
20:40  |  欧州&世界映画  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑

【欧州&世界映画】 2015.08.29 (Sat)

ソビエト映画 『ざくろの色』~亜欧の交差点にて


ざくろの色  セルゲイ・パラジャーノフ - Google 検索(40)


 ソビエト時代の映画 『ざくろの色 (1968-71)』 を初めて観ました。
 監督はセルゲイ・パラジャーノフという旧ソ連アルメニア人。

 オリエンタルな色彩・装飾と平面的な構図は、ちょうどこの辺りを支配していた古いビザンチン絵画のよう。ほとんどセリフもストーリーもない、イメージだけが連続するシュールな世界。

 なんだか分からないけど、なんて美しい!! ひとつひとつの絵を切り取って、そのまま壁に並べたい!

 むかし洋酒のCMで、怪異な大道芸人たちが砂漠に並ぶ名作 (「サントリー・ローヤル/ランボー編」) がありましたが、もしかしてその元イメージはこれ? これだよ!? (ずっとフェリーニあたりが元ネタだと思ってた。)


 黒海とカスピ海に挟まれ、かの 「ノアの箱舟」 がたどり着いた地であるというアルメニア。その末裔が一大王国を築き、ミラノ勅令(313年)に先駆けて世界で初めてキリスト教を国教とした由緒ある国。

 そんな、ごく初期のキリスト教文化をそのまま保存したような映像世界からは、そのあと西隣のトルコや南のペルシャ、さらには北のロシア=ソ連といった歴史強国に蹂躙されつづけながら、しぶとく自らの文化と信仰を守り通した 「アルメニア」 という民族の、無言の矜持を感じます。 (少し北には、独立紛争で知られるチェチェンがあることからも、この地がいかに複雑な歴史の火種を抱えているかが分かるだろう。)

 パラジャーノフ監督自身、ソビエト共産政府の支配下にあってはこのような作風が理解されるはずもなく、何度も弾圧・投獄されたという「生と魂を苛まれている男」
 前に観た、代表作とされる悲恋劇 『火の馬』 (1964) も美しくて分かりやすいのですが、ぼくは本作のイメージのほうにこそ、電撃が走るような感動をおぼえました。
 
17:25  |  欧州&世界映画  |  コメント(1)  |  EDIT  |  上へ↑