【欧州&世界映画】 2021.01.30 (Sat)
思い出の中の『舞踏会の手帖(1937仏)』

フランスの名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の古典映画 『舞踏会の手帖』。1937年。
秋ごろにBS放送を録画したものを、やっとこさ見終わった。
富豪の夫を亡くした若く美しい未亡人が、古い「舞踏会の手帖」をたよりに少女時代の恋人たちを再訪してまわる・・・
・・・という、相手側にしたらはっきり言って迷惑この上ないお話。
案の定、「思い出は美化される」とのセリフにあるとおり、彼女は男たちのさまざまな人生の現実や残酷を目の当たりにする。それでも彼女は、生きる目的をなくした「自分のため」だけに、懲りずに次の相手を訪ねてまわるのだ。あの日の舞踏会で彼らを次々と袖にしたように。
ただしこれは、ヒロインの問題というより、ご丁寧にもヒロインを受け入れ続ける相手の男たち――作り手の男たちの願望なんだろう。あの日のマドンナともう一度会いたい、会いに来てほしい・・・ただし若く美しいままで!
これが男女の立場が逆だったら、もっとシビアでお話にもならなかったに違いない。
ヒロインの内面の葛藤は深みに欠け、最後のほうになるとただの傍観者でしかなくなり、彼女なしでお話が進みだす有様。
セリフや映像ひとつひとつは美しいが、都合が良すぎる展開や人物の動線に無頓着な編集など、作品全体としてはまったくリアリティに欠けるおとぎ話だった。
ずいぶん昔に観てあまり惹かれなかった記憶だけあったのだが、それは今回も変わらなかった。
心の中にしまっておけばまだマシだっただろう。それでもぼくの思い出めぐりは続くしかないようだ。
【欧州&世界映画】 2019.02.09 (Sat)
≪欧州&世界映画≫書庫もくじ
思い出の中の『舞踏会の手帖(1937仏)』
『戦艦ポチョムキン(1925)』~人におすすめするにはクセが強かった動画集その1
脱獄するなら…ベッケルの『 穴 ('60仏)』
メッシよりユン・ピョウだろ!『チャンピオン鷹('83香港)』
ドヌーヴ×ブニュエルの 『昼顔 ('67仏)』
不愉快な幸福のカタチ~A・ヴァルダ『幸福('65仏)』
大人の香港 『花様年華 ('00)』
ブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』
ルコント×ブラームス 『仕立て屋の恋』
ソビエト映画 『ざくろの色』~亜欧の交差点にて
甘ぁい『ロシュフォールの恋人たち』(だけどほろ苦い)
続・夕陽の「良い奴、悪い奴、汚ねェ奴」
ジャン・ルノワール 『ピクニック (1936仏)』
クルーゾー×モンタン 『恐怖の報酬』
『ひまわり(1970伊)』
『男と女』、フランス冬の海
ルイ・マルふたたび
ジャッキーの強敵ベスト5!
ブルース・リー、感じろ!
ぼくの好きなラッセ・ハルストレム
『黄金の七人』~イタリア版ルパン3世
ギャバン&ドロンの『地下室のメロディー』
新旧 『美女と野獣』
『太陽がいっぱい』の名人芸
ドイツ古典映画が好きです。
ヴィスコンティにおぼれて
死刑台のルイマルとマイルス
【欧州&世界映画】 2019.02.08 (Fri)
『戦艦ポチョムキン(1925)』~人におすすめするにはクセが強かった動画集その1
お気に入りのマニアックなYouTube動画を、3回に分けてご紹介。今回はその1。無断で拝借ごめんなさい。
⇒第2弾、“猪木問答”モノマネ
⇒第3弾、昭和の自治体フィルム

“映画の神様” セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の歴史的名作映画 『戦艦ポチョムキン』。1925年、ソ連。 (大先生をマニアック呼ばわりして、重ね重ねごめんなさい。)
「モンタージュ(「構築」「組み立て」)」 と呼ばれる、場面場面のつながりで物語を紡いでいく映画のキホンを確立。
映画史上伝説の名場面 「オデッサ階段」 のシーンもいいけどその前、20:00から始まる艦上の銃殺刑シーンにハラハラ!
笑う艦長、おびえる反乱兵、うつむく他の船員たち、そして銃を構える兵、あるいは一見なんてことない事物や手元のアップなど・・・。これらの映像を計算してつなげることで、「誰が何を」の5W1Hがより感情的に劇的に伝わってくる。無表情で銃を構える兵たちは果たして引き金をひくのか!? 細かいお話は忘れていたので、今回ほんとうにドキドキした。(同じ無表情でも彼らの心が揺れ動き、最初と最後では感情が違うことが分かるだろう。)
また、フィルムの堅い質感やメリハリのきいた陰影もカッコいい。ぼくにとっては、エイゼンシュテインといえばモンタージュ理論よりこういう映像の質感のイメージ。
ショスタコーヴィチ作曲の交響曲(第5、10番など)も雰囲気にピッタリ!
神様エイゼンシュテインをこれ以上語るほど偉くないので、今はこうやってタダでこっそり見るだけにしておきます。あの名作この名作が続々と著作権切れになって、お茶の間で手軽に楽しむことができて、いい時代になったもんだ・・・と言っていいもんだか。まあいいや。
次回その2は、「元気ですかー!」のあの人の名場面・・・のモノマネした人。お楽しみに!
【欧州&世界映画】 2018.10.11 (Thu)
脱獄するなら…ベッケルの『 穴 ('60仏)』

ジャック・ベッケル監督の遺作となった映画 『穴』。1960年フランス。
刑務所からの脱獄を企てる囚人一味の、世にもあざやかな“プロ”の計画。
大予算のアメリカ映画とはひと味違う、フランス映画らしい硬派なつくり。
音楽はなく、ただ無感情に機械的に掘られていく穴、穴、穴・・・。
たとえばヒッチコックなら、穴を掘る囚人と近づく看守を交互に見せて、スリルを盛り上げるだろう。
しかし本作のカメラは狭苦しい監房に寄り添い、穴を掘る手元を写すだけ。
周りの状況が見えない、判らないからいつ破たん<カタストロフィー>が来るやも知れず、ハラハラ!
一方で、画面の横から伸びてくる手が土をかき出し、次の道具を受け渡す――
――そのチームプレイ、手際の良さときたら!
その職人仕事に感心すらしました。 あんたがた、じゅうぶんシャバで食ってけるでしょうよ。
鏡の破片と歯ブラシで“潜望鏡”を作ったり、土質や刑務所内部など描写は詳細にわたる。
砂時計も手作り。見てきたかのような名アイディアの数々。
それもそのはず、計画を主導するリーダー格の男は、この事件のモデルとなったご本人・・・
・・・って実話だったのかよ! しかも本人出演って!
堅いセメントをほんとに打ち壊していく轟音と息遣いが、これもまた「人間の営み」であることを
かろうじて思い出させてくれる。かろうじて。
ハリウッドの痛快娯楽 『大脱走』 にはない、この突き放したつめたさがいい。
ふたつの大戦や旧植民地諸国との独立戦争で疲弊・閉塞しきった、戦後フランスの「あきらめ」や
蟷螂(とうろう)の斧に似たむなしい「あがき」が突き刺さる、脱獄ものの傑作です。
牢獄から逃げおおせたところで、この世界のどこに自由があるのだろう?
【欧州&世界映画】 2018.07.02 (Mon)
メッシよりユン・ピョウだろ!『チャンピオン鷹('83香港)』

(VHS版)
サッカー・ワールドカップもたけなわ。
夜ごと、世界最高峰の技に酔いしれるのは結構ですが、誰か忘れちゃいませんか?
ユン・ピョウ主演のサッカー映画 『チャンピオン鷹』! 1983年香港!
【YouTube】チャンピオン鷹・予告編
こんなの見たことないよ!新春かくし芸大会だよ!
学校のグラウンドか撮影所の裏山で撮ったような、ルール無用の壮絶肉弾サッカー。
場面つなぎの脈絡なんか滅茶苦茶で、何がどうなってるのか分からない場面もいっぱい。
制作はユエン・ウーピン(袁和平)、監督はその弟ブランディ・ユエン(袁振洋)、
世界に名を馳す「袁家班」が贈る、’80年代香港映画黄金の神髄に吃驚仰天すること必至です。
のちの 『少林サッカー』 も大好きだけど、それとはひと味違うユン・ピョウたちの身体能力!
できるまで何度も何度も撮り直したんだろうな。
CG全盛のつまらない今だからこそ、これは本当に偉いと思う。
敵役のディック・ウェイは、『プロジェクトA』 のラスボスでもおなじみ。
赤キャップに黄シャツ・短パンって、ファミコンの高橋名人かと思ったよ。
ほか、準主役の「張國強」さんってどこかで聞いた名前だなーと思っていたが、
早世した大スターのレスリー・チャン(張國榮)とゆかりはないらしい。
最後になったけど、ユン・ピョウかわいい!
じつは彼の主演映画を観るのは初めてで、この映画もつい最近知りました。
古谷徹さんの吹き替えで観たかったなー。上の古いVHS版ジャケは、実写版アムロみたい。
【欧州&世界映画】 2017.11.02 (Thu)
ドヌーヴ×ブニュエルの 『昼顔 (1967仏)』

カトリーヌ・ドヌーヴ主演、ルイス・ブニュエル監督による官能的な映画 『昼顔』。1967年フランス。
いきなり、馬車の貴婦人が夫とその御者に凌辱されるシーンから始まって「!?」。でもすぐに現代パリに暮らす夫婦の部屋に変わり、それは妻の妄想だったことが分かる。
裕福な生活と優しい夫の愛に恵まれながら、どこか満たされない想い。貞淑のヨロイを剥がされ汚されたい願望・・・。そして女は「昼顔」の名で娼館で働きはじめる。罪悪感と快楽のはざまで女の妄想は広がっていきます。
ブニュエル監督は“現実”と“妄想”を明確に描き分けていないので、観客もヒロインの主観と同化してズルズルと欲望の淵に堕ちていくかのよう。キリスト教(カトリック)への反発もブニュエルらしいけど、お堅い社会派ではないので、この同化・共感できるかがカギ。
やたら注文が多いドM執事プレイの客や、よく分からない日本人客のナゾすぎる日本描写など、小ネタ?がけっこう笑えた。
また、冒頭シーンこそ妄想だと知らずドン引きさせられたけど、農夫姿の夫に罵られながら泥をぶつけられるシーンくらいになると、あのドヌーヴさまが汚されていく妄想にゾクゾクさせられました。
あぁ、おいたわしやドヌーヴさま・・・(今だ、そこで投げろ!へんな編集は入れるな!)
当時23歳、まだアイドル時代の印象を残すドヌーヴの官能的な演技は、どれだけ衝撃だったか。
現代ならもっときわどい性の欲求や描写があふれているかもしれない。それにシュールレアリスムの雄ブニュエルの中では、これでもまだ道徳的でおとなしいほうだ (だからヒットした皮肉)。昔見たときは平凡に映ったけど、今ならかえってお上品でグイグイと惹きつけられました。サンローランの四角ばった衣装や、パリの薄汚れた裏通りがノスタルジックでいい雰囲気。とてもおもしろかった。
『昼顔 (1967仏)』
監督・脚本/ルイス・ブニュエル (本作でヴェネチア映画祭金獅子賞。)
脚本/ジャン=クロード・カリエール (これら後期ブニュエル作品群で名を成した名手。
2014年には宮崎駿らと共にアカデミー名誉賞。)
撮影/サッシャ・ヴィエルニー (アラン・レネ監督や後年はピーター・グリーナウェイを支えた。)
主演/カトリーヌ・ドヌーヴ (実はすでに一時の母。また同年姉を事故で亡くしている。)
ジャン・ソレル (夫ピエール。絵にかいたような二枚目。)
ミシェル・ピコリ (嫌味な知人ユッソン。続編でも同じ役を演じたらしい。)
ジュヌヴィエーヴ・パージュ (娼館のマダム。老け顔のドヌーヴより彼女の方がタイプです。)
ラスト、窓の外を走る無人の馬車、そして彼女の耳に届いた鈴の音は、“妄想”からの解放だったのか。突きつけられる“現実”に彼女は勝てるのだろうか・・・。
【欧州&世界映画】 2017.07.12 (Wed)
不愉快な幸福のカタチ~A・ヴァルダ『幸福('65仏)』

アニエス・ヴァルダ監督 『幸福('65仏)』
フランスの小さな田舎町。ひまわり咲く野山で憩う若い夫婦の一家。父に抱っこされ、母に手を引かれるヨチヨチ歩きの子供たちの、なんと愛らしいこと!(4人はほんものの家族だそうだ。)
ボンコツながらも味のある古い型のライトバン。ふたり抱き合ってようやく収まる小さな小さなシングルベッド・・・。そして、時どき挿入されるひまわりの映像。カットバックの瞬間、色が乱れるぶっきらぼうな編集がヌーベルバーグっぽくてかっこいい。
昔の映画フィルムならではのざらついた、けれど温かみのある画調は、日曜カメラマンの家族アルバムのようで親しみが湧いてきます。
モーツァルトの室内楽にのせて、絵に描いたようなフランスの田舎の休日が描かれる。まさに絵に描いたような、これでもかとばかりの 「幸福」 にあふれた、アニエス・ヴァルダ監督1965年の映画 『幸福 〈しあわせ〉』。
未見の方がいるのを承知でネタバレしますが、この映画はこんなにも温かい一家の愛で始まり、同じように一家の変わらぬ愛で終わります。
・・・が、それがたまらなく嫌な気持ちにさせるのです。
べつに 「他人の幸福に嫉妬して」 なわけではないことは、実際にご覧になって追体験してみてください。怖ろしい映画です。
はじめはこんなのに何千円も出させやがってと、DVDを割ってやろうかとすら思いました。フェミニストとして知られるアニエス・ヴァルダが、悪びれもせず、臆面もなくこんな映画を作ったことに失望もしました。
でもふと思い返すと、気になって仕方ありません。少しずつ、不愉快な気持ちが自分自身への罪悪感のようなものに変わっていくことに気づきました。
自分が幸福であればあるほど、不都合にフタをし、うわべだけの美しさに日々酔いしれている罪悪感。さらにはその罪悪感にすらフタをして、忘れて、あるいは気づきもせず生きている自分自身の姿を鏡で映された。
【YouTube】 Le Bonheur (1965) Trailer
一家「4人」の幸福をつづった予告編。核心の部分には触れていないのですが、物語を知ってからこれを見た方は“あのこと”に気づくでしょう。本気でゾッとします。(BGMはこのスリリングな 『アダージョとフーガ』 じゃなくて、どこまでものんびりな 『クラリネット五重奏曲』 のほうが、かえって怖いと思うんだけどな。)
仏映画の “新しい波” ヌーヴェル・ヴァーグを先導したアニエス・ヴァルダ。その術中に見事にはまった、一本取られました。
参った。